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2025.09.12
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【経済産業省 特別寄稿 最終回】DX認定取得に向けた平均的なタイムラインとDX支援ガイダンス

【経済産業省 特別寄稿 最終回】DX認定取得に向けた平均的なタイムラインとDX支援ガイダンス

はじめに
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、現代のビジネス環境において、企業が持続的な成長を遂げるために不可欠な要素となっています。市場の変化が加速し、顧客のニーズが多様化する中で、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革は、もはや選択肢ではなく、必須の経営戦略です。経済産業省が推進する「DX認定制度」は、このような時代の流れに応え、企業がDXを効果的に進めるための具体的な指針と道筋を示すものです。本制度は、単にデジタル技術を導入するだけでなく、経営者のリーダーシップのもと、全社的な変革を促し、企業文化そのものをデジタル時代に適応させることを目指しています。

本連載では、これまで5回にわたり、DX認定制度の意義と取得に向けた各論について、具体的な事例を交えながら解説してきました。第1回では、「DX認定制度」の概要と、その基盤となる「デジタルガバナンス・コード3.0」の要点に触れ、DX推進の全体像を概観しました。続く第2回では、DXの第一歩となる「DX戦略の策定」に焦点を当て、経営層が果たすべき役割と、従業員を巻き込む重要性について解説しました。第3回では、「DXを推進する組織づくり」をテーマに、組織横断的な体制の構築や、DX成功の鍵を握る組織文化とマインドセットの変革について解説しました。第4回では、DX推進を成功に導くための具体的な提言を多角的に考察し、第5回では「DXセレクション」に選定された企業の成功事例を通じて、現場主導のDXがどのように実現されたかをご紹介しました。

最終回となる本稿では、これまでの議論を総括し、DX認定取得に向けた具体的な行動計画に焦点を当てます。DX推進を成功させるためには、その道のり全体を俯瞰し、計画的に進めることが不可欠です。本稿では、DX認定取得までの平均的なタイムラインを提示し、具体的なステップと注意点を解説します。また、DX推進をさらに深く理解し、自社の状況に合わせて応用するための重要な資料として、経済産業省が公開している「DX支援ガイダンス」とその「別冊事例集」を紹介します。これらの資料は、DXの旅路を歩むすべての企業にとって、貴重な羅針盤となるでしょう。

本連載が、DXという重要な変革に臨むすべての企業に対し、有益な示唆を与え、具体的な行動の一助となることを期待します。

経済産業省 デジタル高度化推進室長 河﨑 幸徳

目次
  1. DX認定取得に向けた平均的なタイムライン
  2. 「DX支援ガイダンス」の紹介
  3. 「DX支援ガイダンス 別冊事例集」の紹介

1. DX認定取得に向けた平均的なタイムライン

DX認定制度の申請は、企業のDX戦略策定から始まり、平均して約1〜3ヶ月の準備期間を要します。このプロセスは、単なる事務手続きではなく、企業がDXの本質を理解し、全社的な変革を推進するための重要なステップです。以下に、DX認定取得に向けた具体的なステップと目安となる期間を詳細に解説します。

ステップ1:DX推進体制の構築(2週間〜1ヶ月)

DX推進の成功は、経営者の強い意志とリーダーシップにかかっています。まずは、DXを推進するための組織体制を確立することが不可欠です。

  • 経営層のコミットメント:
    経営陣がDXの重要性を深く理解し、全社的な変革を主導する姿勢を明確に示します。DXはIT部門だけの問題ではなく、全社を巻き込む経営課題であるという認識を共有することが重要です。
  • DX推進部門の設置:
    DX推進を担う部門やチームを設置します。既存の部門から横断的にメンバーを選出し、部門間の連携を円滑にすることが望ましいです。専門的な知識を持つ担当者や責任者を明確にすることで、プロジェクトの方向性を定めます。
  • ビジョンと目標の策定:
    「なぜDXを推進するのか」という根本的な問いに対する答えを明確にします。市場の競争力強化、顧客体験の向上、新たなビジネスモデルの創出など、具体的なビジョンと目標を全従業員が共有できる形で策定します。この段階で、DX戦略の骨子を固めることが、その後のスムーズな進行に繋がります。

ステップ2:現状分析とDX戦略策定(1ヶ月〜2ヶ月)

次に、現状を客観的に分析し、具体的なDX戦略へと落とし込みます。

  • 現状のITシステムと業務プロセスの可視化:
    自社のITシステムがどのような状態にあるか(いわゆる「2025年の崖」問題の温床となるレガシーシステムを含む)、そして各業務プロセスがどのように行われているかを詳細に分析します。この分析を通じて、非効率な部分やデジタル化の余地がある領域を特定します。
  • 具体的なDX戦略とKPIの設定:
    特定された課題を解決するために、どのようなデジタル技術をどのように活用するかという具体的な戦略を策定します。例えば、「顧客データの統合により、パーソナライズされたマーケティングを展開する」「AIを活用した需要予測により、在庫を最適化する」といった具体的な施策を盛り込みます。また、これらの施策がどの程度成功しているかを測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。KPIは、売上増加率、コスト削減率、顧客満足度など、客観的に測定可能な指標であることが望ましいです。
  • 申請要件とのギャップ分析:
    経済産業省が公開している「DX認定制度 申請チェックシート」を活用し、自社のDX戦略が認定要件をどの程度満たしているかを評価します。この段階で不足している要素を把握し、戦略を修正・補強することで、申請の成功率を高めることができます。

ステップ3:申請書類の作成と提出(2週間〜1ヶ月)

戦略が固まったら、いよいよ申請書類を作成します。

  • DX推進計画書(認定申請書)の作成:
    ステップ2で策定したDX戦略を、所定のフォーマットに沿って詳細に記述します。この計画書は、審査機関が貴社のDXへの取り組みを評価する際の重要な資料となります。DXのビジョン、戦略、体制、そして具体的な実施計画を論理的かつ説得力のある形で記述することが求められます。
  • 事業計画の策定プロセスを明確化:
    DX推進計画書に、その計画がどのように策定されたのか、経営陣や各部門がどのように関与したのかを記述します。これにより、計画の実行可能性と全社的なコミットメントをアピールします。
  • 申請手続きの実施:
    必要な書類を揃え、情報処理推進機構(IPA)のDX推進ポータルから申請を行います。この際、書類に不備がないか、提出期限を厳守しているかなどを再確認することが重要です。

ステップ1からステップ3のタイムラインは、あくまで平均的な目安です。DXへの取り組みがすでに進んでいる企業であれば、より短期間での申請も可能でしょう。一方で、DXがこれからという企業にとっては、十分な時間をかけて準備を進めることが成功の鍵となります。

2.「DX支援ガイダンス」の紹介

DX推進に取り組む地域の中堅・中小企業をサポートする支援機関向けに、経済産業省は「DX支援ガイダンス」を公開しています。本ガイダンスは、支援機関が企業を効果的にDXへと導くための具体的な手法や支援のポイントをまとめたものです。

  • 主な支援機関とは:
    地域でDXを推進するにあたり、行政機関、商工会議所、金融機関、地域DXセンター、専門コンサルティング企業などが支援機関として重要な役割を担います。本ガイダンスでは、これらの機関がどのように連携し、企業の課題解決を支援していくべきかが示されています。特に、地域の中小企業にとって、身近な存在である地域金融機関、地域ITベンダー、地域のコンサルタントなどは、企業のDXにおける「主治医」的な役割を果たすことが期待されます。
  • 主治医的な役割を果たす支援機関の重要性:
    多くの地域の中堅・中小企業は、DXの必要性は感じつつも、「何から手をつければ良いのか分からない」「自社の課題がどこにあるのか不明確」といった悩みを抱えています。このような企業にとって、初診で総合的に診断を下し、必要に応じて専門医(外部の専門家)と連携して支援を行う「主治医」のような存在が必要です。身近な支援機関がこの役割を担うことで、企業は安心してDXの相談ができ、それぞれの状況に合わせた最適な支援へと繋げることができます。
  • 支援機関の連携:
    企業のDXを成功に導くためには、一つの機関だけでなく、複数の支援機関が連携して包括的なサポートを提供することが有効です。それぞれの支援機関が持つ弱みや強みを相互に補完し合うことで、より質の高い、きめ細やかな支援が可能となります。本ガイダンスは、そうした連携のあり方についても解説しています。
  • 支援人材の育成:
    支援機関が適切なサービスを提供するためには、DXに関する専門知識やコンサルティング能力を持った人材の育成が不可欠です。本ガイダンスは、支援人材が習得すべきスキルセットや、効果的な人材育成プログラムの構築方法についても言及しています。

これらの情報は、支援機関が企業の状況に合わせて適切な支援を提供するための羅針盤となります。もし、貴社がDXを自社だけで進めることに困難を感じた際は、本ガイダンスを活用している専門の支援機関の伴走支援を得ることも、有効な選択肢の一つです。外部の知見やノウハウを取り入れることで、DX推進をより確実にし、さらに加速させることが可能となります。

3.「DX支援ガイダンス 別冊事例集」の紹介

「DX支援ガイダンス」と併せて活用いただきたいのが、「DX支援ガイダンス 別冊事例集」です。本事例集には、支援機関の伴走支援を受け、DXに取り組んだ企業の成功事例が多数掲載されており、自社のDX戦略を具体的にイメージする上で非常に参考になります。

  • 多様な業種の事例:
    製造業、サービス業、小売業、建設業など、様々な業界の事例が紹介されています。これにより、自社の業界や規模が異なっても、共通する課題や成功のパターンを見出すことができます。
  • 課題と解決策:
    DX成功の鍵となった経営者のリーダーシップ、組織文化の変革、技術選定のポイント、外部パートナーとの連携方法などが解説されています。これらの要因を分析することで、自社のDX戦略に活かせるヒントや教訓を得ることができます。

これらの事例は、DX推進を絵に描いた餅に終わらせず、現実的な行動へと繋げるための貴重な情報源となるでしょう。成功事例を学ぶことで、自社のDXに対するモチベーションを高めるだけでなく、潜在的なリスクや課題を事前に把握することも可能になります。

おわりに
DX認定制度は、単なる認証制度ではなく、企業の持続的な成長に向けたDX推進の羅針盤です。本連載が、DXの重要性について再認識し、具体的な行動の一歩を踏み出す契機となることを期待いたします。

DX推進は一朝一夕に成し遂げられるものではありませんが、今回ご紹介した「DX支援ガイダンス」や「事例集」を参考に、DX認定という明確な目標に向かって着実に準備を進めていくことで、成功への道筋は見えてくるはずです。DXは、単なる技術導入にとどまらず、ビジネスモデル、組織文化、そして従業員の働き方を根本から変革する取り組みです。この取り組みを成功させるためには、経営層から現場の従業員まで、全社が一丸となって取り組むことが不可欠です。

経済産業省では、DXを通じて新たな企業価値を生み出し、日本経済全体の成長につなげていくことを目指し、今後も政策の立案や支援に力を入れてまいります。

本連載が、貴社のDX推進に少しでもお役に立てれば幸いです。

筆者

経済産業省 河﨑 幸徳様 経済産業省
商務情報政策局 情報技術利用促進課
地域情報化人材育成推進室長・デジタル高度化推進室長
河﨑 幸徳
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