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2025.05.15
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【経済産業省 特別寄稿 第2回】なぜかあまり知られていない「DX認定制度」をやさしく解説 ~DXに立ち向かうのなら、この制度を活用しよう~

【経済産業省 特別寄稿 第2回】なぜかあまり知られていない「DX認定制度」をやさしく解説  ~DXに立ち向かうのなら、この制度を活用しよう~

はじめに
最近、新聞等のマスコミには、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)という文字が毎日のように登場しており、企業の経営者や従業員の方々も無関心ではいられない状態と推察します。実際、今日のビジネス環境において、デジタル化やDXは企業が持続的な成長と競争力を確保するための生命線と位置付けられています。

デジタル化やDXは、国内外を問わず急速に進展し、あらゆる産業でビジネスモデルや顧客体験が再定義されています。労働人口の減少と高齢化、生産性向上への強い要請、そしてグローバル市場での競争激化、といった様々な課題に直面している日本においても、DXはこれらの課題を克服し、新たな成長の機会を創出するための鍵と言えるでしょう。

経済産業省もこの状況を深く認識し、日本経済全体のデジタル化・DXを強力に推進しており、その一環として設立されたのが「DX認定制度」です。「DX認定制度」は、日本企業がデジタル変革を推進するための重要な柱の一つとして位置づけられており、国はその普及と活用を強く奨励しています。しかし、認定取得企業は2025年5月時点で1,448事業者であり、日本の法人企業数が約178万事業者であることを考慮すると、ほとんど活用されていないのが現状です。

今回は、この素晴らしい制度を紹介するとともに、ぜひ、皆様にDX認定取得を目指していただき、DX企業への変革を推進していただきたいと願っています。

経済産業省 デジタル高度化推進室長 河﨑 幸徳

目次
  1. DX認定制度とは
  2. DX認定の現状
  3. DX認定を取得するメリット
  4. 今こそDX認定取得へ:未来への投資
  5. DX認定取得への第一歩

1. DX認定制度とは

DX認定制度は、経済産業省が「情報処理の促進に関する法律」に基づいて創設した公的な制度です。その主な目的は、企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを抜本的に変革していくための準備が整っている状態、すなわち「DX-Ready」であることを国が認定することで、効率的かつ間違いなく推進することにあります。

認定の基準となるのは、経済産業省が策定した「デジタルガバナンス・コード」であり、このコードに示された基本的事項に対応しているかどうかが評価されます…と書くと、難解に感じてしまい、取っつきにくいですよね。

要は、「うちの会社もDXに取り組みたいけれど、どうすれば良いか」を解説しているのが「デジタルガバナンス・コード」であり、これを理解した上で、正しく効率的にDXへの取組方針や体制の準備ができたら、「取り組む準備ができましたので、間違いなく準備ができていることを確認いただき、認定してください」と申請します。申請すると、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が審査を行い、認定されるレベルに達したら、経済産業大臣に「あなたの会社はDXに立ち向かう準備ができています」ということを認定してもらえる制度です。

その前提となっているのが、DXへの立ち向かい方を解説した「デジタルガバナンス・コード」なのですが、タイトルからして分かりづらいとの声を多くの方々から伺いました。 新たに、タイトルも本文も分かりやすく解説した「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き」を用意しましたので、こちらを熟読してから準備いただけると取り組みやすいと思います。

DX認定制度の運営事務局はIPAが担っており、申請の受付、審査、問い合わせ対応など、DX認定に関する一連の業務を行っています。詳細は下記サイトを参照ください。IPAがわかりやすく説明しています。

「DX認定」の申請ステップ
申請の
ステップ
主なアクション 意義・詳細
1
デジタルガバナンス・コードの理解 認定基準となるコードの内容を把握することが最初のステップです。
2
中堅・中小企業等向けDX推進の手引き」の活用 手引きを参考に、自社のDX戦略と実施計画を策定します。
3
DX推進指標の活用(任意) 自社のDXの現状を自己診断し、課題を明確にするために役立ちます。
4
経営ビジョンとDX戦略の策定 デジタル技術を活用してどのようなビジネスモデルを実現したいのか、具体的な戦略を立てます。
5
DX推進体制と人材育成計画の策定 戦略を実行するための組織体制や、必要な人材の育成・確保計画を明確にします。
6
ITシステム整備とサイバーセキュリティ対策 デジタルインフラの整備計画と、情報セキュリティ対策について検討します。
7
DX戦略の成果指標の設定 DXの取り組みがどの程度成果を上げているかを測定するための指標を設定します。
8
IPAウェブサイトでの申請 必要事項を記入し、オンライン(DX推進ポータル)で申請を行います。申請チェックシートを活用し、不備がないか確認しましょう。
9
審査期間 通常、審査には60営業日程度の期間を要します。

2. DX認定の現状

DX認定制度への関心と導入は年々高まっており、その取得企業数は着実に増加し、2025年5月1日現在、1,448事業者がDX認定を取得しています。

取得状況と認定事業者の推移は図1の通りで、2025年5月までの直近1年間で認定企業数が大幅に増加していることがわかります。特に注目すべきは、中小企業等におけるDX認定の伸び率で、1.6倍に増加しています。これは、これまでDX推進は大企業が中心でしたが、中小企業においてもその重要性が少しずつ認識され、積極的に取り組む動きが徐々に広がっていることを示唆しています。

図1:DX認定企業数の推移

DX認定企業数の推移

業種別に見ると、情報通信業や製造業での取得割合が高い傾向にありますが、2025年5月時点のデータを見ると、農業、建設業、卸売業、小売業、金融業、サービス業など、ほぼ全ての業種でDX認定企業が存在しており、その裾野は着実に少しずつ広がっているのがわかります。

ただし、現在の伸び率のままでは、日本の企業DXが劇的に進展することはありません。もっと多くの企業がこの制度を理解し、正しく取り組んでDX認定を取得していただきたいと願うばかりです。

3. DX認定を取得するメリット

DX認定を取得することには、企業にとって多岐にわたるメリットがあります。特に、資金調達における優遇措置は、DX推進を強力に後押しする要因となります(詳細は、本章の最後に掲載している図2を参照ください)。

3.1. 企業イメージと信頼性の向上

  • DX認定ロゴマークの使用: 認定事業者は、自社がDXに積極的に取り組んでいる企業であることを対外的にアピールするために、DX認定制度のロゴマークをウェブサイトや名刺などに使用できます。このロゴマークは、DXのスタートラインに立つ企業をイメージしており、企業の先進性と信頼性を高める効果が期待できます。
  • DX推進ポータルへの掲載: DX認定を受けた企業は、IPAのDX推進ポータルサイトに事業者名が掲載されます。これにより、取引先や顧客からの認知度向上につながり、新たなビジネスチャンスの創出も期待できます。
  • ステークホルダーからの評価向上: DX認定は、顧客、取引先、株主、従業員といった様々なステークホルダーからの評価向上に貢献します。デジタル化への積極的な取組みを示すことは、企業の将来性や成長性をアピールする上で重要な要素となります。

3.2. 資金調達における優遇措置

  • 日本政策金融公庫による低金利融資: DX認定を受けた中小企業者は、設備投資などに必要な資金について、日本政策金融公庫から基準金利よりも低い特別金利で融資を受けられます。2025年5月時点では、基準金利1.75%に対し、特別金利は1.10%となっています。この金利優遇措置は、中小企業がDX推進に必要な投資を行う際の経済的な負担を軽減します。
  • 中小企業信用保険法の特例: DX認定を受けた中小企業者が、情報処理システムを良好な状態に維持し戦略的に利用するために必要な設備資金などについて、民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、通常とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。これにより、資金調達の選択肢が広がり、より円滑なDX投資が可能になります。

3.3. 戦略的・業務的な改善

  • DX戦略策定の促進: DX認定の申請プロセスでは、企業のDXに関するビジョン、戦略、体制などを明確にする必要があり、この過程を通じて、自社のDX推進における課題や方向性を整理できます。
  • 業務効率化とイノベーションの促進: DX認定取得に向けた取組みを通じて、既存の業務プロセスの見直しやデジタル技術の導入が進み、業務効率化や生産性向上、新たな製品やサービスの開発につながる可能性があります。
  • 人材獲得と定着の促進: DXに積極的に取り組む企業であるというイメージは、デジタルスキルを持つ人材にとって魅力的に映り、採用活動において有利に働く可能性があります。また、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
  • 他の政府支援プログラムへの応募資格: DX認定は、上場企業向けの「DX銘柄」 や、中堅・中小企業等向けの「DXセレクション」への応募資格となります。これらのプログラムは、優れたDXの取組みを表彰するものであり、さらなる企業価値向上につながる可能性があります。

実際にDX認定を受けた企業は、どんな変化を感じているのでしょうか?
アンケート調査によると、DX認定を受けた企業の約8割が「DX認定を受けたことで、自社のDX戦略を進めるのに役立った」と答えています。これは、認定を受けるために、自分たちの会社のデジタル化やDXについて改めて考え、目標を明確にする良い機会になったからだと推測できます。

また、お客様との関係が良くなったと感じている企業も多いようです。デジタル技術を活用することで、新たなサービスの提供や、お客様のお困りごとを解決できるようになったからだと思われます。

さらに、社員の育成や採用にも良い影響があったと感じている企業もあります。デジタル化やDXに力を入れていることをアピールすることで、新しい人材が集まりやすくなったり、社員のモチベーションが上がっているのでしょう。

そして、DX認定のロゴマークをホームページなどに載せることで、「この会社は、デジタル化やDXに積極的に取り組んでいるのだな」というイメージアップにもつながっているようです。

実は、DX認定を受ける中小企業は増えていて、この1年で約1.6 倍に増えています。様々な業種の企業がデジタル化やDXの重要性を感じて、この認定を受けているのだと思われます。
※中小企業等認定数:2024年5月 446事業者→2025年5月 716事業者 1年間で、270事業者増加

これらの効果を踏まえますと、DX認定を受けることは、自社のデジタル化やDXを後押ししてくれるだけでなく、お客様との関係の改善、社員の成長の促進、自社のイメージアップにもつながっており、良いことずくめと評価しても過言ではない状況です。

図2:DX認定取得事業者への各種支援措置

DX認定取得事業者への各種支援措置

4. 今こそDX認定取得へ:未来への投資

DX認定制度の取得は、単なる認証に留まらず、企業の持続的な成長と競争力強化に向けた重要な戦略的ステップです。

前述の通り、DX認定企業数は少しずつですが、着実に増加しており、この制度の存在を知った多くの企業がその価値を認識し、積極的に取り組んでいます。とは言っても、DX認定取得企業は、約178万の事業者が存在する法人企業の0.08%にあたる1,448事業者しかありません。ぜひ、この機会に「DX認定制度」を知っていただき、活用した経験や効果を周りの方々に伝えていってください。

現代のビジネス環境において、DXへの取り組みは、もはや避けて通れない道です。

DX認定を取得することで、[3.2. 資金調達における優遇措置]で紹介したように、資金調達等の優遇措置を活用しながら企業全体のデジタル変革を加速させられますので、DXを推進しない企業は競争において不利な立場に立たされる可能性があります。

5. DX認定取得への第一歩

DX認定の取得に向けて、まず自社のDX推進の現状を自己評価することから始めましょう。

IPAのWEBサイト「DX認定制度のご案内」では、DX認定取得のメリットをはじめ、申請から認定まで、認定基準、関連サイト、FAQなどが提供されていますので、参照しながら取り組んでください。

DX認定の申請にあたって、経営ビジョン、ビジネスモデル、DX戦略、組織体制、ITシステム整備、サイバーセキュリティ対策など、多岐にわたる項目が評価されます。

IPAのウェブサイトには、申請準備に役立つ詳細なガイダンスや事例が掲載されていますので、ぜひ、参考にしてください。また、下記も役立つ資料です。

ご不明な点があれば、IPAのDX認定制度事務局まで問い合わせることも可能です。

DX認定の取得は、貴社の未来を切り拓くための重要な一歩です。今こそ、デジタル変革への取り組みを加速させ、DX認定の取得を目指しましょう。

おわりに
DX認定制度は、日本企業がデジタル変革を推進し、持続的な成長を実現するための強力な支援策です。最新のデータからも、その取得企業数はまだまだ少ないですが、着実に増加しており、多くの企業がそのメリットを実感していることが伺えます。

金融支援措置や人材開発支援助成金といった具体的な金銭的メリットに加え、企業イメージの向上や戦略的なDX推進の枠組みの提供など、その効果は多岐にわたります。

変化の激しい現代において、DXへの取り組みは企業の生き残りを左右すると言っても過言ではありません。

今こそ、貴社もDX認定の取得を目指し、デジタル時代の競争を勝ち抜くための確固たる一歩を踏み出してください。あなたが経営する、または所属する会社が「DX推進ポータル」に登場するのをお待ちしています。

次回記事の公開をメールマガジンでお知らせいたします。
どうぞ、ご登録ください。

筆者

経済産業省 河﨑 幸徳様 経済産業省
商務情報政策局 情報技術利用促進課
地域情報化人材育成推進室長・デジタル高度化推進室長
河﨑 幸徳
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