「SEUが使えなくなる」などの誤解や混乱を招いたのが、2024年5月に発表された「ソフトウェアの営業活動終了およびサポート終了: IBM i Modernization Engine for Lifecycle Integration (Merlin) 1.0.0、 IBM Rational Developer for i 9.6、および IBM i ポートフォリオのその他の一部の機能」です。
本記事を執筆している2025年1月時点においても、上述した誤解や混乱が収束していないことを踏まえ、日本アイ・ビー・エム株式会社(以降は、日本IBM と記述)は「IBM Rational Development Studio for i Application Development Toolset の一部ツールのサポート終了に関して」と題した資料を公開しました。
このたび、日本IBMの許諾が得られましたので、当該資料を当サイトに掲載するとともに、資料に記載されている内容について解説いたします。
「IBM Rational Development Studio for i Application Development Toolset の一部ツールのサポート終了に関して」は、こちらからダウンロードしていただけます。(要 iWorld会員ログイン[登録無料])
サポートを終了する一部の機能 | SEUとPDMは継続利用が可能 |
該当機能を提供する最後のリリース | 代替機能の有無 |
DFUはSQLなどを利用 | CGU以外での外字対応 |
サポートを終了する一部の機能
2024年5月に発表された内容は、2025年4月30日をもって、「IBM は以下のプログラム・リリースの一部の IBM i 機能について、ライセンス交付を受けた製品のIBMプログラムのご使用条件の下でライセンス交付を受けたサポートを終了します。」というものでした。
その一部の機能とは以下の通りです(発表書簡より抜粋)。
IBM i の機能 | パッケージ化 (LPP、インストール可能オプション、メニュー・オプション) |
後継製品情報 |
---|---|---|
ブートストラップ・プロトコル (BOOTP) サーバー | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | 代替機能は、BOOTPのアドオンがあるKeaと呼ばれるInternet Systems Consortium(ISC)が提供するDHCPサーバーです。 |
ネイティブ動的ホスト構成プロトコル(DHCP)サーバー | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | 代替機能は、Keaと呼ばれるInternet Systems Consortium(ISC)が提供するDHCPサーバーです。 また、DHCPサーバー機能を提供する会社もあります。 |
リモート認証ダイヤルイン・ユーザー・サービス(RADIUS) | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | なし |
ドメイン・ネーム・システム(DNS) サーバー | IBM i(5770-SS1)オプション 31の機能 | マーケットプレイスで利用可能な多くの外部DNSサーバーがあります。 |
経路デーモン(RouteD) | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | IBM iのOMPROUTEDは、RouteDに代わるものです。OMPROUTEDは、RIP、Internet Protocol バージョン 6(IPv6)用のRIP次世代 (RIPng)およびOpen Shortest Path First (OSPF)ルーティング・プロトコルをサポートします。 |
仮想プライベート・ネットワーク(VPN) Internet Key Exchange バージョン 1(IKEv1) プロトコル | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | IBM iの最新のセキュアな置き換えは、VPN IKEv2プロトコルです。 |
IP ペイロード圧縮プロトコル(IPComp) | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | IPCompはIKEv1ではサポートされますが、IKEv2ではサポートされません。IKEv1は撤回されるため、IPCompも撤回されます。 |
Quality of Service(QoS) サーバー | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | なし |
HTTP Server用のFRCA(Fast Response Cache Accelerator) | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | IBM HTTP Server for i(Powered by Apache)には、いくつかの組み込みキャッシング・オプションがあります。 |
パフォーマンス・グラフィックス | Performance Tools for i(5770-PT1) オプション 9 | Navigator (i 用) |
パフォーマンス・アドバイザー | Performance Tools for i(5770-PT1) オプション 10 | なし |
Graphical Data Display Manager (GDDM) | IBM i(5770-SS1) オプション 14 | なし |
OptiConnect | IBM i(5770-SS1) オプション 23 | OptiConnectの主な用途は、ObjectConnect(5770-SS1のもう1つのインストール可能オプション)を仮想OptiConnect上で実行することです。代わりに、TLS(Transport Layer Security)を使用してIP経由でObjectConnectを実行することも可能です。 |
IBM マネージメント・セントラル・サーバー | IBM i(5770-SS1)ベースの機能 | Navigator (i 用) |
IBM Rational Development Studio for i Application Development Toolsetは、一部のツールを終了します。 ・報告書設計ユーティリティー ・画面設計機能 (SDA) ・ファイル比較および組み合わせユーティリティー (FCMU) ・拡張プリンター機能 (APF) ・文字作成ユーティリティー (CGU) ・データ・ファイル・ユーティリティー (DFU) |
Rational Development Studio for i(5770-WDS) オプション 21 | 置換には、Rational Developer for i、Code for iなど、いくつかのオプションがあります。 |
ビジネス・グラフィックス・ユーティリティー | 5761-DS2 | 置換には、Rational Developer for i、Code for iなど、いくつかのオプションがあります。 |
プログラム番号 | プログラム名 | VRM | サポートを終了する日 | サポートされるリリース |
---|---|---|---|---|
5724-Y99 | IBM Rational Developer for i | 9.6.0 | 2025年4月30日 | 9.8.0 |
5900-AN9 | IBM i Modernization Engine for Lifecycle Integration (Merlin) | 1.0.0 | 2024年9月30日 | 2.0.0 |
プログラム番号 | プログラム名 | VRM | サポートを終了する日 | サポートされるリリース |
---|---|---|---|---|
5733-RDW | IBM Rational Developer for i | 9.6.0 | 2025年4月30日 | 9.8.0 |
SEUとPDMは継続利用が可能
サポートを終了する機能の中に、5770-WDS IBM Rational Development Studio for i Application Development Toolset(通称:ADTS)が含まれていたことで、黒画面のエディターが廃止されて、Rational Developer for i(以降、RDiと記述)やVS Codeへの移行が必須になる、と思い違いをされた方が多かったようです。
正確には、発表書簡に明記されている通り、ADTSの一部機能のみのサポート終了となります。
つまり、多くの方々が使用している以下については、今回のサポート終了の対象外です。今後も、サポートが継続されます。
- プログラム開発管理機能 (PDM)
- 原始ステートメント入力ユーティリティー (SEU)
該当機能を提供する最後のリリース
IBM i 7.5が、2025年4月30日付でサポート終了となるADTSの各機能を提供する最後のリリースであると、IBM i の計画情報のサイトに記載されています。つまり、IBM i 7.5の次のリリースでは、出荷されない予定です。
PDM、SEUを含むADTSは、2008年(IBM i 6.1)以降、機能が強化さないまま17年が経過し、一部機能について出荷終了が計画される局面を迎えたことになります。
代替機能の有無
IBMの資料によると、2025年4月30日付でサポート終了となるADTSの6つの機能に対する代替機能の有無は、下表のとおりです。
サポート終了となるツール | 代替機能 | 考慮点 |
---|---|---|
報告書設計ユーティリティー(RLU) | Rational Developer for iのレポート・デザイナー(設計モード) | Rational Developer for i は有償のツールのため、追加購入が必要となります。 |
画面設計機能(SDA) | Rational Developer for i のスクリーン・デザイナー(設計モード) | |
ファイル比較および組み合わせユーティリティー(FCMU) | Rational Developer for i の比較機能、コピー機能 Visual Studio Code のファイル比較機能、Gitを利用したマージ機能 |
|
拡張プリンター機能(APF) | 無し | IBM 5224および5225ワークステーション印刷装置の特殊な印刷機能に使用されるため、 現在は使われていないと想定されます。 |
文字作成ユーティリティー(CGU) | ISV製品の外字エディター (IBM製品に後継機能なし) |
|
データ・ファイル・ユーティリティー(DFU) | SQLなどのプログラミング言語 ISV製の同等機能製品 |
お客様の利用方法により、SQLでのプログラム化に工数がかかる可能性があります。 |
報告書設計ユーティリティー(RLU)、画面設計機能(SDA)、ファイル比較および組み合わせユーティリティー(FCMU)については、有償となりますが、RDiにある類似機能が利用可能とのことです。詳細は、日本IBM提供資料「IBM Rational Development Studio for i Application Development Toolset の一部ツールのサポート終了に関して」を、こちらからダウンロードしてご確認ください。(要 iWorld会員ログイン[登録無料])
拡張プリンター機能(APF)は、ドットインパクトプリンターで罫線印刷をする際に必須でした。現在は、ドットインパクトプリンターの需要が減少傾向であることと、ISV製の印刷ユーティリティーの利用が増えいることから、サポート終了の影響は大きくはないと思われます。
DFUはSQLなどを利用
データ・ファイル・ユーティリティー(DFU)は、IBM i 以前(IBM System i、IBM eServer iSeries、IBM AS/400、さらには、IBM System/38)から、データ修正で活用されてきたことから、お客様の業務メニューの中にデータ・メンテナンス用プログラムとして組み込まれている可能性があります。
この観点から、DFUのサポートが終了する2025年4月30日までの間に、稼働中のDFUプログラムの有無を確認しておくことを推奨します。
なお、現在、お客様がIBM i 7.5をお使いで、2025年5月以降も引き続き7.5を使い続ける場合は、DFUはそのまま稼働するということにも注意が必要です。なお、本記事を執筆している2025年1月時点において、7.5より先のリリースは存在しておりませんので、今後のリリースでDFUが稼働するかどうかは不明です。
ただし、2025年5月以降も7.5を使い続けることでDFUの稼働が継続できていても、DFUのサポートは終了しています。障害などの問題が発生してもIBMからの支援は受けられません。従いまして、もし、お客様の判断でサポート終了製品の利用を継続なさる場合は、障害などはお客様ご自身の責任となりますことをご留意ください。
代替機能の有無の表に掲載しているように、SQLなどのプログラミング言語の利用、もしくは、ISVが提供する同等機能製品の採用が、DFUの代替機能となります。
IBMからは、SQLでのデータ入力、照会の際には、IBM i Access Client Solutions の「SQLスクリプトの実行」機能や、Visual Studio Code の拡張機能である「Db2 for i」を活用すると便利であると紹介されています。
ISV製の同等機能製品としては、三和コムテック株式会社の「FileScope」がDFU代替機能として該当しそうです。
CGU以外での外字対応
文字作成ユーティリティー(CGU)は、標準的な文字セットに含まれない外字(規格外の漢字)をユーザー自身で作成・登録するためのユーティリティーです。
既に登録済みの外字は、フォント・テーブルのコピーにより移行が可能ですが、7.5の次のリリース以降において外字を継続して利用できるかどうかは現時点では不明です。また、少なくとも、7.5の次のリリース以降ではCGUが提供されませんので、新規に外字を作成して登録することはできなくなります。
IBM i向けに世界標準の仕様に準拠したWebフォントを生成できる製品として株式会社オフィスクアトロの「Spoolライター」が知られていますので、今後も新規に外字の登録が見込まれる場合は検討いただくと良いかもしれません。
また、特殊な独自記号を登録していない場合は、文字コードとして多くのユーザーで採用されているCCSID=5026や5035ではなく、1399を採用するというのも一案です。CCSID=1399は5035のDBCS部分が拡張されたもので、JIS第三・第四水準文字も取り扱える文字コードとなるため、今まで外字登録していた漢字の多くがカバーされています。
ただし、CCSIDの設定値を変更する際には、システム、ジョブ単位からデータベースのレコード単位、フィールド単位から端末設定まで複雑に絡み合っているので、注意が必要です。 CCSID設定値の変更を検討される場合は、お取引の販売店や開発パートナーへご相談ください。
参考:iMagazine「IBM iの文字コードを考える ~IBM iの日本語環境|EBCDIC編(短期連載 2)」
本記事は、IBMの資料に基づいてADTS一部機能のサポート終了を解説しました。7.5の次のリリースにおけるサポート終了製品の稼働実績や、代替ソリューションなどの追加情報はiWorldでも注意を払ってまいります。
パッケージ化:Rational Development Studio for i (5770-WDS) オプション 21
・報告書設計ユーティリティー
・画面設計機能 (SDA)
・ファイル比較および組み合わせユーティリティー (FCMU)
・拡張プリンター機能 (APF)
・文字作成ユーティリティー (CGU)
・データ・ファイル・ユーティリティー (DFU)