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2025.03.24
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「リフト」に留まるか、「シフト」に至るか

「リフト」に留まるか、「シフト」に至るか

ガートナージャパン株式会社が2月に出したプレスリリース「Gartner、オンプレミスに関する最新の展望を発表:2026年末まで、日本企業の半数は、従来型の仮想化基盤の近代化に失敗する」をご覧になった方は多いと思います。

上記プレスリリースを一読したことが、IBM Powerサーバー上のIBM i 環境を「リフト」する事例が増えている現状を考察するきっかけとなりました。なお、本記事の執筆主旨と異なるため、上記ガートナージャパン株式会社のプレスリリースの内容の紹介や掲載内容への言及はいたしません。

オンプレミス用ITインフラの今後の選択肢:「システム更改」もしくは、クラウドへの「リフト」

IBM Power サーバーの保守サービスに期限があることから、IBM i をIBM Power サーバー上で稼働させているお客様は、一定期間ごとにITインフラの今後を検討することになります。

前提として、「後方互換性」をOSとしてのIBM i が担保していることから、お客様が独自に開発されたアプリケーションやビジネス・ロジックの「現行踏襲」が可能です。

したがって、システム要件を充足する適切なモデルのIBM Power サーバーにシステム更改いただく際も、お客様独自のアプリケーションやビジネス・ロジックは継続してご利用いただくことが可能です。

一方、IBM Power サーバーが搭載するIBM Power プロセッサーは、研究開発による性能向上をプロセッサーの世代ごとに実現しています。その結果、エントリー・モデルであってもIBM i の利用において「高性能すぎる」状況が近年は生じるようになりました。

このような場合には、IBM Power Virtual Serverや、サービス事業者が提供するIBM i 専用のクラウド・サービスを利用する、クラウドへの「リフト」が適切な選択肢となりえます。そして、どちらを利用した場合でも、適切にIBM i 環境が用意されるので、お客様は最適なハードウェア資源配分のもと、長年利用してきた独自のノウハウの詰まったアプリケーションやビジネス・ロジックを、オンプレミスのIBM Power サーバーと同様に継続利用できます。

ただ、企業活動の基幹システムを、「現行踏襲」のままで利用を継続して良いのかという観点から、単純な「リフト」の是非が問われる状況も生じているようです。

「現行踏襲」は是か非か。あるいは、DXに取り組むのか。

2024年10月に日本IBMが公開したIBM i 施策メッセージ「IBM i 次期システム更改の稟議上申ポイントを日本IBMがご紹介します」では、IBM i のためのシステム更改時に、経営者にIBM i をご理解いただくという観点で、稟議書提出時の重要なポイントが紹介されています。

稟議書提出にあたり「経営者にIBM i をご理解いただく必要性がある」という状況は、前例にならう「現行踏襲」視点の説明や対応では、ITインフラへの投資が正当化されにくくなっていることの証左でしょう。

また、中堅企業の成長支援を謳う「改正産業競争力強化法」を踏まえて活用可能な施策が取りまとめられた「中堅企業成長促進パッケージ2025」にGXとDXに関する章(p.145~「6. GX・DX」)があるように、最近では中堅・中小企業で遅れが見られるDXや、2050年までに「カーボンニュートラル」を実現するためのGXへの取り組みなどが、投資が正当化されやすい対象となっていると言えるでしょう。

ここで、「DXへの取り組みに関する投資は正当化されやすい」と仮定して、経済産業省が取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」と、デジタルガバナンス・コードの基本的事項に対応する企業を国が認定する「DX認定制度」における、情報システムに関係する箇所を見てみましょう。


IPA 独立行政法人 情報処理推進機構『DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)』10ページ目の内容の一部を画像化

経営者に求められる対応として、DX認定制度の「情報システム」関連の項目として記載されている1つは、「サイバーセキュリティに関する対策の的確な作成及び実施」。もう1つは、「最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示」となっています。

「サイバーセキュリティに関する対策の的確な作成及び実施」
セキュリティについては、そもそもIBM i は、一体化されたハードウェアとOSとデータベースが、標準で多様なセキュリティ対策機能を備えていることから、IBM i を使っていること自体がサイバーセキュリティ対策であるとも言える程の堅牢性を誇っています。

そして、最新のIBM i バージョン7.5においては、ユーザーIDとパスワードのみのセキュリティ保護は廃止され(QSECURITY 20の廃止)、企業のセキュリティ・ポリシーに則り、プログラムやデータなどのオブジェクト毎のアクセス権限付与が必要となりました。

また、セキュリティとコンプライアンスのソリューションであるIBM PowerSCがIBM i ネイティブで稼働するようになり、IBM i のセキュリティは、堅牢性をさらに増しています。

「最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示」
「最新の情報処理技術を活用するための環境整備の具体的方策の提示」については、具体的方策は各社各様であるため明示することは困難です。

ただし、DX認定の申請チェックシートを確認する限り、「データ活用」が重要であることがわかります。

事実、IPAが掲載している「DX認定制度 新規申請 認定申請書記入例」をご覧いただくと明らかですが、DX認定の申請チェックシートでは、DX戦略として「デジタル技術を用いたデータ活用が組み込まれた具体的な取り組み内容」の記載が必要なのです。


IPA 独立行政法人 情報処理推進機構『DX認定制度 新規申請 認定申請書記入例』2ページ目の内容の一部を画像化

IBM i の場合、OSにデータベース(Db2 for IBM i)が統合されており、また前述の「資産継承性」もあり、IBM i の上には長年蓄積された業務データが存在しています。その企業の宝たるデータを、どのような手段を用いて、どう活用するかがDXへの取り組みの鍵となるわけです。

すなわち、Db2 for IBM iにあるデータの活用こそが、「リフト」の先にある「シフト」に至る道への入り口となるでしょう。

クローズドソースではあるが、オープンなIBM i だからこそ実現できるデータ活用

IBM i は、Linuxのようなオープンソースではなく、クローズドソースに分類されるOSです。ただ、IBM i はオープンなOSであり、その内部では多数のオープン系技術が採用されています。

例えば、前述の通りOSに組み込まれているデータベースであるDb2 for IBM i も、従来のレコードベースのアクセスだけでなく、SQLインターフェースを介してのアクセスも可能です。さらに、IBM i ではJSON形式もサポートされていることから、外部システムとの外部連携も容易です。

また、 IBM i Access ODBCドライバーを用いるODBC接続や IBM Toolbox for Java JDBCドライバーを用いるJDBC接続もサポートされているため、WindowsやLinuxのアプリケーションからDb2 for IBM i のデータを利用することが可能です。

【お客様事例】株式会社マルテー大塚
IBM i を武器に サービスの差異化を続けるマルテー大塚の 「IBM Cloud 統合大作戦」
・Linuxサーバー上の商品照会や代理店向け受発注のWebアプリケーションが、IBM i とIBM Db2 Connectでリアルタイム連携

さらに、 Webベースのアプリケーションやサービス間での通信を可能にするAPIであるREST APIも利用可能であることから(統合Webサービス・サーバーの作成が必要)、データベース・アクセスのみでなく、外部からIBM i 上にあるビジネス・ロジックを起動することも可能です。

【お客様事例】株式会社カミオジャパン
オープン系技術者の参画とベンダー製品の活用で、IBM i が開かれたシステムに
既存システムの堅実で適切な運用と、ExcelやWebといった利用者にとって親和性が高いフロントエンドの活用の両輪
・ベンダー製品の活用により、API連携でVBAからIBM i 上の複雑なロジックを呼び出し活用
・PHPやSFTPなど、オープン系の技術スキルの活用

日本IBMのお客様事例ポータルに掲載されている以下の事例も、「シフト」の具体例として参考になるでしょう。

【お客様事例】安田倉庫株式会社
積年のノウハウが凝集された物流システムをハイブリッドクラウドでモダナイズし、多様な顧客ニーズへの対応を強化 事例PDF
・安定稼働を重視するIBM iはプライベートクラウドで運用
・コンテナ技術とマイクロサービスによる新たなアプリケーションは、コンテナ管理基盤にマネージド・サービスの 「Red Hat OpenShift Service on AWS(ROSA)」を採用
・IBM i とAWS のハイブリッドクラウド連携は、専用ネットワークの AWS Direct Connect を介して実現

もちろん、目的に合致する場合は、データ活用に寄与するISV製品の採用をご検討いただく価値があります。以下のリンク先をご参照ください。
ソリューション一覧「データの有効活用」


DX認定の申請にて必須となっている「デジタル技術を用いたデータ活用が組み込まれた具体的な取り組み内容」の記載を踏まえ、本記事の最終章では「リフト」の先にある「シフト」を「Db2 for IBM i にあるデータの活用」と置き換えて、事例を交えながら整理しました。

REST API、JDBC接続、ODBC接続、そして、IBM Db2 ConnectやISV製品によって、データ活用の前提となるDb2 for IBM i へのアクセスは実現できます。すなわち、システム更改やクラウドへの「リフト」に留まることなく、DXへの取り組みを視野に入れる「シフト」のための「手段」はあります。そして、何よりもご利用のIBM i には、長年蓄積された貴重なデータがあるのです。

IBM i をご利用の各社様におかれましては、安心して「具体的な取り組み」をご検討いただければと思います。

筆者

株式会社イグアス
iWorld 編集部
黒澤 巧

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