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2025.07.14
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【経済産業省 特別寄稿 第4回】デジタルガバナンス・コード3.0の概説と「経営ビジョン・ビジネスモデル策定」の重要性

【経済産業省 特別寄稿 第4回】デジタルガバナンス・コード3.0の概説と「経営ビジョン・ビジネスモデル策定」の重要性

はじめに
DXの推進は、現代の企業にとって不可欠な要素となっています。特に中堅・中小企業においては、限られたリソースの中でいかに効果的にDXを進めるかが課題です。

ここでは、デジタルガバナンス・コード3.0の概説と、「経営ビジョン・ビジネスモデル策定」の重要性について、DXセレクション2025選定企業を例に紹介・解説し、さらに「中堅・中小企業等向けDX実践の手引き」の活用についても触れていきます。

経済産業省 デジタル高度化推進室長 河﨑 幸徳

目次

デジタルガバナンス・コードの背景と歴史

経済産業省が策定した「デジタルガバナンス・コード」は、企業がDXを推進し、持続的な企業価値向上を図るための指針です。このコードが作成された背景には、日本企業の国際競争力の低下と、デジタル技術の急速な進展という2つの大きな要因があります。

1. 2018年「DXレポート」の衝撃

デジタルガバナンス・コードの作成に先立つ重要な転換点となったのが、2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」です。
このレポートは、日本企業が抱えるITシステムの現状と将来の危機感を鮮明に描き出しました。

  • 「2025年の崖」問題: 多くの日本企業が抱える老朽化・複雑化・ブラックボックス化した基幹システム(レガシーシステム)が、2025年までに刷新されなければ、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしました。
  • 国際競争力の低下: 欧米企業がデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを次々と創出する中で、日本企業は既存のシステムに縛られ、迅速なデジタル変革に対応できていない状況が指摘されました。このままでは、国際競争における日本のプレゼンスがさらに低下する危機感が共有されました。
  • 経営者の意識変革の必要性: DXは単なるIT部門の問題ではなく、経営戦略そのものの問題であるという認識が広まりました。経営者がIT・デジタルに関するリテラシーを高め、DXをリードしていく必要性が強調されました。

この「2025年の崖」というインパクトのある言葉は、多くの企業経営者にDXへの危機意識を植え付け、国を挙げてDX推進に取り組む契機となりました。

2. デジタルガバナンス・コードの策定と変遷

「2025年の崖」問題を克服し、企業がDXを本格的に推進していくための具体的な指針として、経済産業省はデジタルガバナンス・コードの策定に着手しました。

  • デジタルガバナンス・コード1.0(2020年3月策定):
    「DXレポート」で示された課題認識を踏まえ、企業がDXを推進するために必要なガバナンス上の対応、特に経営者が果たすべき役割と責任に焦点を当てて策定されました。この時点では、主にDX推進の方向性と、経営者がコミットすべき領域を明確にすることが目的でした。
  • デジタルガバナンス・コード2.0(2022年9月策定):
    1.0の運用を通じて得られた知見や、その後のDXの進展を踏まえ、内容が拡充されました。特に、DXを組織全体で推進するための体制構築や人材育成の重要性が強調され、より実践的な内容へと深化しました。また、DXの成果をどのように評価し、戦略を見直していくかといった視点も加えられました。
  • デジタルガバナンス・コード3.0(2023年9月策定):
    最新版の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、「DX経営による企業価値向上に向けて」という副題が示す通り、DXを単なる業務効率化に留めず、企業価値向上に直結させるための経営戦略としての位置づけを一層明確にしています。特に、データとデジタル技術を最大限に活用し、新たなビジネスモデルを創出することの重要性が強調されています。また、持続可能な社会の実現に向けた視点も取り入れられ、ESG(環境・社会・ガバナンス)への貢献も意識した内容となっています。

このように、デジタルガバナンス・コードは、日本企業のDXの進捗状況や社会・経済情勢の変化に応じて、内容が継続的にアップデートされてきました。その根底には、日本企業がデジタル変革を通じて国際競争力を回復し、持続的な成長を実現するという強い意志が込められています。

デジタルガバナンス・コード3.0の概説

最新版の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、経営者の主体的な関与とDXを経営戦略に組み込むことの重要性を強調しており、それを企業がDXを進める上で求められる以下の、3つの視点と5つの柱で示しています。

    【3つの視点】
  1. 経営ビジョンとDX戦略の連動: 経営ビジョンとDX戦略を一体化し、DX戦略が経営ビジョンの実現を支えるように策定・実行すること。
  2. As is – To be ギャップの定量把握・見直し: 経営ビジョン実現を阻害するデジタル面の課題を特定し、現状と目指すべき姿とのギャップを定量的に把握し、DX戦略を継続的に見直すこと。
  3. 企業文化への定着: DXを組織全体で推進するための企業文化の醸成。
    【5つの柱】
  1. 経営ビジョン・ビジネスモデルの策定: データとデジタル技術を活用し、社会及び競争環境の変化を踏まえて目指すビジネスモデルを策定すること。
  2. DX戦略の策定
  3. DX戦略の推進(組織づくり、デジタル人材の育成・確保、ITシステム・サイバーセキュリティ)
  4. 成果指標の設定・DX戦略の見直し
  5. ステークホルダーとの対話

この中で特に重要なのが、最初の「経営ビジョン・ビジネスモデルの策定」です。

「経営ビジョン・ビジネスモデル策定」の重要性

DXは単なるITツールの導入ではなく、経営戦略そのものの変革です。そのため、明確な経営ビジョンと、それを実現するためのデジタル技術を活用したビジネスモデルを策定することが不可欠です。

  • 企業は、データ活用やデジタル技術の進化による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえて、経営ビジョン及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルを策定する ことが求められます。
  • これにより、データとデジタル技術を活用して新規ビジネスの創出を目指す取り組みが明確になり、その取り組みが実施され、効果が出ているかどうかが評価の基準となります。

DXセレクション2025選定企業に見る「経営ビジョン・ビジネスモデル策定」の事例

経済産業省が選定する「DXセレクション」は、デジタルガバナンス・コードに沿った取り組みを通じてDXで成果を残している中堅・中小企業等の優良事例を表彰するものです。DXセレクション2025では、グランプリ1社、準グランプリ3社、優良事例11社の計15社が選定されました。

これらの選定企業に共通しているのは、明確な経営ビジョンに基づいたDX戦略を策定し、実行している点です。例えば、グランプリを受賞した株式会社後藤組(山形県)の事例を見ると、彼らは建設業界における生産性向上と人材確保という経営課題に対し、サイボウズ「kintone」を主軸としたノーコード・ローコードツールを活用した業務アプリの内製化を推進しました。これにより、ペーパーレス化、残業時間削減、新卒者の定着率向上といった成果を上げています。

この事例では、「建設業界の生産性向上と人材定着」という経営ビジョンがあり、それを実現するために「ノーコード・ローコードツールを活用した現場主導のデジタル化」というビジネスモデルを構築したと言えます。単にシステムを導入するだけでなく、現場社員が自ら業務アプリを作成・改善することで、業務効率化と働き方改革を両立させ、競争優位性を確立している点が特筆されます。

準グランプリや優良事例に選定された企業も、それぞれの業界や事業特性に応じて、明確な経営ビジョンとそれに基づいた具体的なDX戦略を策定し、成果を出しています。これらの事例は、中堅・中小企業がDXを推進する上での具体的なヒントとなるでしょう。

「中堅・中小企業等向けDX実践の手引き」の紹介

経済産業省は、「中堅・中小企業等向けDX実践の手引き」を公表しており、これはデジタルガバナンス・コードに沿って自社のDX推進に取り組む際に参考となる「DXの進め方」や「DXの成功のポイント」を分かりやすくまとめたものです。

この手引きには、DXセレクション選定企業の取り組み内容も参考にしており、以下の成功のポイントが示しています。

  • 気づき・きっかけと経営者のリーダーシップ: 中堅・中小企業では経営者のリーダーシップが大きな役割を果たすため、経営者自らが情報収集を行い、DX推進のきっかけを得ることが重要です。
  • まずは身近なところから: 身近な業務のデジタル化や、既存データの活用から着手し、小さな成功体験を積み重ねることでノウハウを蓄積し、徐々に全体に拡大していくことが有効です。
  • 外部の視点・デジタル人材の確保: 社内に不足するノウハウやスキルは、ITベンダーやITコーディネーターなどの外部機関の支援を積極的に活用することで補うことができます。
  • DXのプロセスを通じたビジネスモデルや組織文化の変革: データやデジタル技術の活用を通じて、ビジネスモデルや組織の変革を進め、組織文化自体を変化に強いものに変革していくことが重要です。
  • 中長期的な取組の推進: DXは一朝一夕で実現するものではなく、中長期的な視点を持って継続的に取り組む必要があります。

「中堅・中小企業等向けDX実践の手引き」は、具体的なステップや事例を交えながら、DX推進における各フェーズでの留意点や成功の秘訣を解説しています。経営ビジョン・ビジネスモデルの策定から、DX戦略の実行、成果指標の設定、そして継続的な改善まで、DXに取り組む企業にとって実践的なガイドとなるはずです。

特に、中小企業経営者にとって、デジタルガバナンス・コードの概念は難解に感じられるかもしれません。この「手引き」は、その抽象的な指針を具体的な行動に落とし込み、自社の状況に照らし合わせてDXを推進するためのロードマップとして活用できます。手引きを通じて、コードの各項目が自社の経営にどう関係するのか、具体的に何をすべきかが理解できるため、デジタルガバナンス・コードを理解し、実践を始めるための第一歩としての重要な役割を担っています。

まとめ
デジタルガバナンス・コード3.0は、経営者にDXの主体的な推進を強く促し、特に「経営ビジョン・ビジネスモデルの策定」がDX成功の要であることを示しています。

このコードは、2018年の「DXレポート」が指摘した「2025年の崖」問題と、日本企業の国際競争力強化の必要性という背景から生まれ、時代の変化とともに進化を続けています。DXセレクション2025選定企業の事例からも、明確なビジョンと、それを実現するためのデジタル技術を活用したビジネスモデルが、企業価値向上に繋がることは明らかです。

「中堅・中小企業等向けDX実践の手引き」を参考に、経営者のリーダーシップのもと、身近なところからDXに着手し、地域金融機関等DX支援機関が持つ外部の知見も活用しながら、中長期的な視点でビジネスモデルと組織文化の変革を進めることが、持続的な成長を実現する鍵となります。

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筆者

経済産業省 河﨑 幸徳様 経済産業省
商務情報政策局 情報技術利用促進課
地域情報化人材育成推進室長・デジタル高度化推進室長
河﨑 幸徳
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