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2024.11.19

IBM i モダナイゼーションの継続的プロセス

IBM i モダナイゼーションの継続的プロセス

IBM iのモダナイゼーションにおける技術的なノウハウに加え、ビジネス知識の重要性に関するCD Invest社のコーエン・デコルテ氏との対談記事の抄訳をお届けします。ここで行われている、モダナイゼーションにおけるビジネス知識の重要性と、「モダナイゼーションは終わりなき開発・改善活動である」という指摘は、従来のモダナイゼーション論にない重要な視点です。(編集部)

2024年2月1日 チャーリー・グアリーノ


チャーリー・グアリーノ(以下、チャーリーと略記します):
今日は、CD Invest社のオーナーであるコーエン・デコルテ氏をお迎えしています。コーエン、あなたとIBM iのモダナイゼーションについて語り合うのは本当に楽しみです。

コーエン・デコルテ(以下、コーエンと略記します):
こちらこそ。

「モダナイゼーション」が意味することとは

チャーリー:
最近、私達はIBMのモダナイゼーションについて随分話してきましたが、モダナイゼーションの捉え方は人それぞれです。IBM iにおけるモダナイゼーションは、あなたにとって何を意味しますか? また、企業や組織によってモダナイゼーションに対する回答が大きく異なるのはなぜですか?

コーエン:
モダナイゼーションは、文字通り訳すとラテン語で「今」という意味です。私にとって、モダナイゼーションとは、「今」、アプリケーションを世の中に適応させ、変化や進化させることです。

CD Invest社のアプリケーションは、現時点で企業が必要とする全てを提供できる状態です。例えば、データベースに変更が必要になったときに、企業によっては簡単に変更が反映できることを意味する可能性があります。別の企業ではデータベースの進化や、ビジネス・ロジックあるいはインターフェースの変更が必要になる場合もあります。

確かに、モダナイゼーションは多くの人にとって様々な意味を持ちますが、すべてに共通する最も重要な点は、誰もがアプリケーションを今、この瞬間に準備完了の状態にしておきたいということです。

チャーリー:
今この瞬間に備える必要があることには私も同意しますが、それだけではなく、将来にも目を向ける必要があると思います。

コーエン:
ええ、アプリケーションの将来は常に今の状態を超えるものですが、私は「アプリケーションの将来」ではなく「アプリケーションの革新的な部分」と呼んでいます。

多くのアプリケーションには革新性が求められており、将来に向けて変化する必要があります。しかし、モダナイゼーションで最初に行うべきことは、やりたいことを実行できるようにすることです。ですから、まず、企業の今のニーズに対応できるようにアプリケーションをレベルアップし、その後さらに進化させます。例えば、SAPやMicrosoft Dynamicsに移行するお客様を見てきましたが、それらのアプリケーションも今のニーズを満たしていません。ただし、SAPやMicrosoft Dynamicsは、新しいテクノロジーに全てを適応させる準備ができています。

「あらゆることに適応可能である」ことこそが、アプリケーションがモダンであることの定義です。大半のお客様は、AIの追加、もしくは新しいインターフェースや他のシステムへの接続の追加、さらにはアプリケーションの一部をクラウドへ移行することを検討しており、追加できるものはたくさんあります。弊社のお客様の ある高級家具メーカーは、IBM i上で稼働するウェブベースの3Dコンフィグレーターを追加しました。お客様が変更できるものは多岐に渡るのです。

チャーリー:
仰ったように、アプリケーションを今日実行できるようにすることは、モダナイゼーションと見なされます。これで、モダナイゼーションとデジタル・トランスフォーメーション(DX)の違いが区別できたと思います。

DXとは、モダナイズされた後、更に新しいテクノロジーに移行することと、私は考えています。これは妥当な意見でしょうか?

コーエン:
妥当だと思います。DXは確かにモダナイゼーションの域を超えています。AIやブロックチェーン、アプリケーションへのIoTの追加、さらにはアプリケーションの一部をクラウド・ネイティブに移行するといった新しいテクノロジーに向かっています。

モダナイゼーションのきっかけと成功に必要なこと

チャーリー:
では、その方向で話を続けましょう。私達はある日突然モダナイゼーションを決意するわけではありません。一般的に、企業がモダナイゼーションを決意したり、モダナイゼーションを余儀なくされたりするビジネス上のきっかけがいくつかあります。これまでに見たことがあるきっかけにはどのようなものがありますか?

コーエン:
多くの場合、事業部門がモダナイズする必要があると言い始めます。例えば、新入社員がIBM i の5250画面を理解できなかったり、古くなったアプリケーションでの作業を利用者が嫌ったり、ビジネスオーナーが5250画面で作業するアプリケーションを見て新しいものが必要だと思ったりする場合もあります。起因が画面の問題の場合もあれば、他のアプリケーションにリンクする新しいアプリケーションの場合や、AIの追加や新しいハードウェアを追加する場合もあります。

例えば、あるお客様は、新しい工場フロアを追加したいと考えると同時に、PLC(編集部注:プログラム可能な制御装置)にリンクするいくつかのIoTも追加したいと考えていました。つまり、それはアプリケーション全体と作業方法を変更することを意味していました。

多くの場合、ビジネス・ユースケースは、事業部門自体の全体的な変革から生まれます。事業部門が、仕事のやり方や生産方法を変えようと言うだけでなく、プロジェクトの主導権を握る場合は、本当に良いイノベーションやモダナイゼーションのプロジェクトが推進されます。

チャーリー:
そのような討議のために企業に招かれた場合、企業がモダナイゼーションのプロジェクトを開始する準備ができているか、あるいは、検討を進める準備ができているかどうかを判断するための事前評価が必要ですね。

コーエン:
お客様から声がかかるのは、何かが失敗したときや、そのプラットフォームで作業する新しい人材が見つからない時です。これらが最も一般的な2つの要因で、私はこれを外部要因と呼んでいます。

自社のプラットフォームで作業する新しい人材や、自社にとって最適な新しいアプリケーションが見つからない場合があります。一方、「AIプロジェクトを実行したい」、「本当に新しいことをしたい」場合には、データあるいは「古いデータを読み解ける人」、「ロジックを読み解ける人」が必要になります。そして、収集したデータを新しいシステムや構築したい新しいアプリケーションに入力する「何か」または「誰か」が必要です。さらに、3Dのような空間的なものやIoTを用いるアプリケーションを構築したい場合もあります。

お客様には、要件を理解できる人々が必要で、要件を理解した人々がビジネスニーズを把握し、プロジェクトを実行します。当然ながら、プロジェクトを実行する人々は意欲的です。ただ、多くの場合、お客様にモダナイゼーションへの意欲が沸くのは、プロジェクトが窮地に追い込まれてからです。私は多くのお客様でそのような場面を目にしています。

チャーリー:
窮地に追い込まれるまで待たなければならないのは実に残念です。なぜなら、もっと時間があれば選択しなかった決断を下してしまうことがあると思うからです。

コーエン:
そうですね、もっと時間があれば、別の決断をするでしょう。

弊社のお客様の中には、常に革新的でありたい、常に変化し続けたい、アプリケーションに投資し続けたいと考えている人々がいます。ITこそが自社を形作るものであり、企業の一部であり、コストではなく資産である、と言うお客様もいます。ただ、多くの場合、ITはコストとして扱われており、そのような考え方のお客様は、残念ながら窮地に追い込まれるケースが大半です。

チャーリー:
窮地に陥るまで行動を起こさないのは何故だと思いますか? モダナイゼーションのプロジェクトを開始することは、企業にとってリスクだと考えているのでしょうか? それとも、他のことで忙しくて、常に後回しにされているだけなのでしょうか?

コーエン:
理由はいくつかありますが、主な理由は、人々が変化を嫌がるからだと思います。それが人間の性です。何も変えないままで何年も問題なくアプリケーションが動いてきたので、アプリケーションのモダナイゼーションにコストがかからないという考え方、あるいは、何年も何も変えなかったため、何かを変えたり何かをしたりするにはコストがかかり過ぎるという考え方のいずれかでしょう。

また、IBM iが持つ可能性に気づいていない場合もあります。私が訪問する多くのお客様は、IBM iで、オープンソースのアプリケーションが実行できること、OCRが実行できること、さらにはAIが実行できることに気付いていません。そのようなお客様は、IBM iは古いアプリケーションを実行するための単なる箱であり、古いアプリケーションが必要なくなったら新しいアプリケーションに移行すれば良い、と考えています。そして、多くの場合、IBM iはコストと見なされています。旧来のアプリケーションを実行するだけのためにIBM iを使用しているのであれば、それは「損失」と見なすこともできるでしょう。

チャーリー:
良い指摘ですね。ここで明らかになったことは、啓蒙や教育が非常に重要、ということです。

コーエン:
啓蒙や教育は非常に重要です。だからこそ、私は多くのお客様のもとに出向いて話をしていますし、多くのイベントに参加するようにしています。そして、企業がやりたいと考える全てが、IBM iで実現できるという事実を指摘しようとしています。

私は、「レガシーとはルネッサンス時代の中世のようなものだ」と、常々言っています。「暗黒時代」とも呼ばれる中世ですが、あるフランスの哲学者は、「私達は巨人の肩に座る小人のようなものだが、ルネッサンス時代の巨人よりも遠くまで見通せ、多くのことができる」と言いました。つまり、中世はそこにあったレガシー全体を進化させた巨人のようなものだったのです。そして、レガシーがなければ、ミケランジェロやラファエロは存在しなかったでしょう。

すなわち、過去から得た全ての知識を活用しなければ、優れたアプリケーションを作成することはできません。過去から得た全ての知識は企業にとって資産ですが、多くの場合、企業はその事実に気付いておらず、この資産をコストと見なしてそれを排除したいと考えています。

チャーリー:
従来のような、データベース、UI、言語自体、あるいは全体を更新するプロジェクトだけでは、もはや、モダナイゼーションとして十分とは言えません。新しいプロセスやテクノロジーを実装できる能力も必要ですし、セキュリティーも向上させる必要があります。

あなたは、セキュリティーが最も重要で、優れたセキュリティーを実装できればモダンになれるという状況を見たことがありますか?

コーエン:
はい、セキュリティー対策のためだけに、弊社に依頼が寄せられた案件もありました。そのお客様は保険会社で、保険ブローカーに対してSSL非対応の状態で5250アプリケーションを提供していたのです。その保険会社は、5250アプリケーションを全ブローカーへの回線で分割していただけだったと思います。

そこで、弊社は、保険会社の5250アプリケーションを、AC/TPSを筆頭とする必要な全てを備えたWeb上のアプリケーションに変更し、セキュリティーを強化する必要がありました。このプロジェクトを実施した主な理由は、ファイアウォールの23番ポートを閉じられるようにするためだったので、セキュリティーが主な推進要因でした。

また、他のお客様では、GDPRに準拠するためにセキュリティー強化が必要となり、データベース暗号化を実装しました。このケースも、セキュリティーが主な推進要因でした。このように、セキュリティーやセキュリティー強化がプロジェクトのきっかけとなるケースはあります。

チャーリー:
しかし、推進要因はセキュリティーに留まりません。セキュリティー、IoT、モダンなUIなど、あらゆる要素が予算を獲得するためのビジネスケースを構築する方法だと思います。

コーエン:
ええ、そうです。多くの場合、企業の上層部または経営者からビジネスケースと予算を獲得できるでしょう。なぜならば、ビジネスケースと予算によって、企業にかかるコストが正当化されるからです。

最終的に、企業の上層部や経営者は投資収益率を知りたいのです。投資によって何が得られるのか、これは本当に必要なのか、それともこれで我慢できるのかを知りたいのです。

チャーリー:
モダナイゼーションのプロジェクトは、1つとして同じものはないと思います。おそらく、それぞれのレガシーは異なる方法で機能しているでしょうし、新たに実装したいテクノロジーの選択も異なるでしょう。

コーエン:
弊社における全てのケースを見る限り、使用されているテクノロジーさえも異なります。Node.jsの場合もあれば、Pythonの場合もあります。もちろん、RPGの場合もあります。さらに、それらの言語の組み合わせの場合もあれば、Javaだけの場合もあります。

企業内の知識や達成したい目標によって異なりますが、現在はソリューションの開発には複数の言語を使用する必要があり、単一の言語で構築するソリューションはもはや存在しないでしょう。

モダナイゼーション・プロジェクトの管理法

チャーリー:
モダナイゼーションのプロジェクトは、潜在的に大きなプロジェクトになる可能性があると確信しています。このようなプロジェクトは、通常、どのように管理しますか? 徹頭徹尾うまく機能する理想的な戦略はありますか?

コーエン:
弊社ではその手法をワークバックと呼んでいます。これは、やらなければならないことを全てリストに載せる手法です。プロジェクトを様々なワークバックに分割し、リストの各項目について、ビジネス上の検討を加え、アイゼンハワー・マトリクスのようなものを使用して、重要度が高い、緊急度が高い、重要でも緊急でもない、という評価を行い、何が重要かつ緊急かを判断します。

最終的には、全ての項目に100点から50点または10点から0点まで点数をつけて、100点の項目だけに取り組みます。そうすることで、より多くの成果が得られるからです。0点の項目は速やかに除外します。時として10点の項目に取り組む場合もありえますが、本当に極端なケースです。多くの場合、10点の項目には取り組みません。

チャーリー:
つまり、タスクごとに異なる重みを割り当てる、重み付けシステムですね。

コーエン:
異なる重みを割り当てるのは、第二次世界大戦でアイゼンハワー将軍が意思決定に使用した手法です。何をする必要があるか、何ができるか、何ができないか、重み付けを与えて評価するTo Doリストの優先順位付けシステムのようなものです。そして、ワークバックを使って個々のパートごとにTo Doリストを作成します。

例えば、大規模なERPアプリケーションを書き直す必要がある場合は、「分かりました。アプリケーションを書き直すのではなく新しいERPを購入しましょう」と言います。販売システムの場合、必要な項目の全てに評価を付けます。その上で、その評価に基づいて100点となった全ての項目の中での優先順位を決め、優先度の高い項目も評価して順位を付けます。そして、いくつかの評価作業が完了するたびに開発の仕事に戻る、という一種の継続的なサイクルに入ります。弊社はほとんどのプロジェクトをこのように実施しています。

モダナイゼーションに求められるスキル

チャーリー:
モダナイゼーションについて話しているときに思い浮かぶもう1つのことは、開発チームのスキルです。モダナイゼーションのプロジェクトが本当に成功するためには、どのようなトレーニングやスキルが必要になりますか?

コーエン:
業務を理解し、古いプログラムからビジネス・ロジックを読み取れること。そして、データベースの知識を持ち、古いコードを読み解いて一方と他方で何が起こっているかを調べられることが求められます。また、PythonやNode.jsといった新しいテクノロジーの経験者からの支援を得ることと、両者のスキルを組み合わせることが必要になります。

テクノロジーの進化は速すぎるため、様々なテクノロジーの全てについて、スキルを獲得することはもはや不可能です。開発者が何でもこなした時代を、現在でも再現できるとは思いません。多くの場合、Python や Node.js を知っている若い開発者達と、経験豊富なシニアのRPG開発者を同一プロジェクトに配します。

若い開発者達はRPGを早期に習得し、数週間でSQLを用いてFF RPGを書けるようになるでしょう。しかし、若い開発者達はアプリケーションを書くために必要なリアルな業務知識が不足しています。一方、年配の開発者はアプリケーションやアプリケーションの実際の動作について多くの知識を持っています。そして、若い開発者達はおそらく年配の開発者よりもテクノロジーに精通しています。

チャーリー:
同感です。年配の開発者のように、20年や30年にわたり、企業や組織で働いてきた人が、退職日を迎えてしまうのは、とても悲しく残念なことです。同時に、多くの企業にとって、非常に怖いことです。

コーエン:
ええ。企業は、特にビジネス知識に関して、何が失われるかを過小評価しています。多くの場合、退職する開発者達は誰にも知識の共有や伝達をしておらず、このことは多くの企業で犯されている大きな過ちと言えます。そして、アプリケーション知識ではなく、多くの場合はビジネス知識が失われるため、最終的に企業は窮地に陥ります。

チャーリー:
もしかしたら、もっと重要かもしれません。

コーエン:
確かに、ビジネス知識の方が重要です。なぜなら、プログラムを読むことはできますが、なぜそうなっているのか分からないことがあるからです。このプログラムには、このIF文があり、開発者はこのフィールドにこれを入れた、ということは分かります。しかし、どのようなビジネス上の理由でIF文を入れたのかは分かりません。開発経緯が文書化されていなければ、疑問符が浮かび続けるだけです。

変更管理システムは重要

チャーリー:
モダナイゼーションに本当に取り組むのであれば、絶対に必要なものの1つは優れた変更管理システムだと私は常々主張しています。あなたは、この見解に同意しますか?

コーエン:
完全に同意します。管理システムが充実しますし、コードのバージョン管理も、GitHubやTortoiseのような集中型バージョン管理システム(SVN)を使うだけで済みます。世の中にたくさんあるSVNの1つを使うだけでコードのバージョン管理をすぐに実施できます。さらに、SVNでは、コードだけでなく、フロントエンドやJSONファイルのバージョン管理もできます。弊社は、お客様向けに開発した3Dコンフィグレーター用の3Dファイルについてもバージョン管理を行っています。誰かが何かを変更したという記録が残りますし、それぞれの変更理由が分かります。

チャーリー:
一部の企業では、他社製であるSVNを利用せずに、独自の変更管理システムを構築しているところもあると聞いています。

コーエン:
はい、独自であっても、変更管理が実践できていれば十分です。独自のシステムを構築し、全ての変更を追跡および文書化してから、本番環境に移行するお客様もいます。これも問題ありません。必ずしも、SVNのパッケージ製品やオープンソースのプロジェクトを用意する必要はありません。自社で作成したもので構いませんが、変更の追跡を管理する必要があります。

モダナイゼーションは継続的な営み

チャーリー:
伝統的なモダナイゼーションに関する最後の質問です。モダナイゼーションのプロジェクトは、いつ正式に終了するのでしょうか。そもそも、本当に終了するのでしょうか。あるいは、モダナイゼーションとは、継続的なプロセスなのでしょうか?

コーエン:
私にとって、モダナイゼーションは継続的なプロセスです。企業が、「一時休止して、1~2年以内に様子を見る」ということは可能ですが、実際には決して止まることはありません。アプリケーションを筆頭とする全てを最新の状態に保つためには、変化を続け、変化に追随する必要があります。ですから、モダナイゼーションは継続的なプロセスです。

チャーリー:
どの時点で「モダナイゼーション」という言葉をやめて「リファクタリング」という言葉だけを使うようになるのでしょうか?

コーエン:
状況によります。最終的には、リファクタリングやデジタル的な変換になることもあります。

弊社に関して言えば、全ての作業を担当したお客様もあれば、他のアプリケーションへの移行作業の一部をお手伝いしたお客様もあります。そして今、弊社は、アプリケーションの一部のパートを元に戻し、再び変更しています。何度も紹介している3Dコンフィグレーターが一例であり、IoTとPLCを連携させたお客様も5年間で2、3回アプリケーションを変更しています。

つまり、絶え間なく変化しているのです。そして、お客様は新しいアプリケーションに価値を見出すと、継続的に投資をするようになります。その結果、IT部門だけでなく、他の部門においても、企業として若い人材の採用が推進されます。

チャーリー:
「新しいテクノロジーを採用する意欲がある企業」というメッセージが伝わりますし、楽しい職場になるからですね。

コーエン:
楽しい職場になりますし、若者達はそのような企業で働きたがります。一方で、投資を継続しない企業の場合はあれこれと手をつけてみるものの、最終的には全て止めてしまいます。若者達がそのような企業で働き続けなくなるのは理解できます。

AIとDXのモダナイゼーションへの影響

チャーリー:
AIに重点を置いた純粋なDXについて話し合いたいと思います。これは誰もが関心を持っているトピックで、どこに行ってもAIに関する質問が出ます。そこで、特にIBM i上のAIについて話し合いましょう。まず、AIはIBM iアプリケーションの状況をどう変え始めているのでしょうか? 既に影響を感じていますか?

コーエン:
既に影響は見られます。多くの場合、アプリケーションをAIに対応させるには変換または変更する必要があるからです。

例えば、データベースに、価格が0のフィールドが存在する場合があります。これは、価格が0ならば管理者に問い合わせる必要がある、という運用ルールに基づいています。しかし、これはAIが検出または認識できないルールです。この場合、AIに対してtrue または falseを検出させるために、0ではない別のフィールドを作成してアプリケーションを適応させる必要があります。場合によっては、9が全て別の意味を持つ、というように同じインスタンスに別のフィールドがあることがあります。このような0や9についてアプリケーションを適応させるとともにクリーンアップし、非常にクリーンなデータベースにする必要があります。

とは言え、データをクリーンアップして、データとアプリケーションのルールから全てを準備するには長い時間がかかります。ほとんどの場合、プロジェクトの80%~90%はアプリケーションやデータの準備に費やされ、AIモデルの構築だけで数週間かかるでしょう。

多くのものを整理しなければならないお客様もいます。例えばベルギーでは、昨年まで世界最大のIoTネットワークがあり、各地の降雨量のデータを収集していました。400~500台のデバイスがそこにあったと思います。この大学では既に3年間プロジェクトが行われていますが、まだデータを整理し、最初のAI予測ができるようにアプリケーションを準備している段階です。ですから、まだ膨大な作業量があります。

チャーリー:
良い予測を行うには良いデータが必要なのは明らかですから、データのクレンジングが大きな部分を占めているのは、驚くべきことではありません。

コーエン:
適切なデータだけでなく、AIモデルが考慮する必要のあるビジネス・ルールを適切に定義する必要もあります。まずは、通常の予測モデルで十分でしょう。

予測では100個売れる筈なのに90個しか売れず在庫が10個余る場合、または110個売れて10個足りない場合、どちらが企業にとってコストがかかるのでしょうか。企業にとって価値を持つためには、このようなコスト規則をAIモデルに組み込む必要があります。AIモデルは常に100個売れると予測しますが、実際に売れる数は場合により変動します。そのため、AIモデルを修正して可能な限りコスト効率を高める必要があります。

弊社は、余剰在庫を抱えたくないというお客様の場合は、要望に合うようにAIモデルを修正して実装し、予測値を下げました。一方で、在庫を保有してもコストがかからないので常に販売機会を得たいと考えるお客様もいます。もちろん、110個を販売したいと考えるお客様もいるので、多めに見積もったり、予測よりも多く売れるイベントをAIモデルに考慮させたりします。

チャーリー:
私達は「モダナイゼーションとはテクノロジーを現在の標準に引き上げること」として会話を始め、その後、新しいテクノロジーについて話し合ってきました。

しかし、今日、モダンではなく純粋にレガシーなアプリケーションを実行しているお客様も確かにいます。しかし、そのようなお客様はAIができることを尋ね、すぐにAIを実行したいと言います。問題は、レガシーなアプリケーションでAIのように高度なものを実行できるのか、それともAIのような高度なテクノロジーを実装する前に実行しなければならない基本的な必須要件があるのかということだと思います。

コーエン:
ええ、多くの場合、そうです。既に、SQL定義のデータベースがあることが必須要件です。なぜなら、多くのシステムにおけるデータ・フィールドとは、計算を行うデータ・フィールドであるべきで、文字や数値フィールドではないことが期待されているからです。

したがって、データベースがまだ整っていない場合は何もできません。5250画面アプリや古いコードは実行できますが、データベースは少なくともトリガーを介して実行し、物理ファイルの代用になるビューを用意する必要があります。そして、その横には、例えば正しい日付形式を含むSQLフィールドやその他のフィールドを用意する必要があります。ただし、最低限、正しいデータベースが必要です。

AI時代でもビジネス知識は重要

チャーリー:
開発チームがモダナイゼーションを実行するために必要な基本的スキルについても語り合いました。アプリケーションにAIを統合するために、チームに必要な追加のスキルはありますか?

コーエン:
AIを実装するには、チームにビジネス知識が必要です。そして、データベース知識、プログラミングの規模に関する知識、ドメイン知識も必要です。

例を挙げるならば、店舗をどこに出店するかを予測するために必要となる知識です。市場と競合相手を知るだけでなく、ビジネス知識も必要です。指示力や分析力を高めたいなら、ドメイン知識そして時には常識さえも必要です。

あるお客様は、既に2つのAIシステムを実装しようとしていました。そのお客様のWebサイトにはたくさんのログがあり、あらゆる種類の訪問がありましたが、錯覚も生み出しており、錯覚をフィルタリングする必要があることをお客様の開発者たちは忘れていました。

つまり、錯覚を生み出してしまうことを見抜ける常識が誰にも無かったため、既にお客様が構築したAIモデルは全て間違っていました。AIモデルは、Googleに正しい割引情報を提供し、お客様にとっての最終顧客に本当の割引を提供するようには作られていませんでした。したがって、特にドメイン知識が最も重要です。

チャーリー:
しかし、この文脈であなたがドメイン知識と言う場合は、技術的な要件を理解している人のことを指しているのだと思います。

コーエン:
そうですね、例に挙げたお客様の場合は技術的な要件でした。他のケース、保険業界では、保険業務や銀行業務、投資銀行の仕組みを知っている人が必要です。

家具を扱うお客様の場合は、どのように家具を作るのか、家具市場がどのように機能しているのか、どのようなタイプの店舗が珍しいか、などを知っている人が必要です。実は、座り心地の好みは様々で、特定の市場では特定の座り心地が不人気だということを、私自身、お客様から学びました。例えば、多くのラテン諸国では柔らかい座り心地が好まれるので、硬い座り心地の家具はあまり売れないそうです。

したがって、AIモデルがドメイン知識を考慮していない場合、または、システムにドメイン知識を追加していない場合、システムはラテン諸国で硬い座り心地の家具が売れる筈だと判断するでしょうが、結局、ラテン諸国では硬い座り心地の家具は売れないでしょう。

残念ながら、このような知識も必要である、ということを忘れている人が多いのです。

チャーリー:
コーエン、これはとても興味深い話題だし新しい話題なので、一日中話し続けられると思います。

コーエン:
これは新しい話題であり、私が本当に関わりたいと思っている話題です。できることが既に見えているので、常に魅力的だと思います。スポーツ分析やAI関連のあらゆる分野で何ができるかを見ると、本当に印象的です。

チャーリー:
まったく同感です。今日はお時間をいただき、本当にありがとうございました。


本記事は、TechChannelの許可を得て「The Ongoing Process of IBM i Modernization」(2024年2月1日公開)を翻訳し、日本の読者にとって分かりやすくするために一部を更新しています。最新の技術コンテンツを英語でご覧になりたい方は、techchannel.com をご覧ください。

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