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2024.12.02

【AI】第9回「ノートパソコンでAIを」

【AI】第9回「ノートパソコンでAIを」
ノート・パソコンでAIを

AI の専門家であるマーク・レイ氏が、パーソナル・コンピューターにAIをセットアップする方法を説明している記事をご紹介いたします。記事執筆の背景、AIに関する知識のレベル合わせのための用語の定義と基礎知識のお話しをします。(編集部)

2024年4月15日 マーク・J・レイ

私がこの記事を書いている2024年3月現在、人工知能は広くあまねく存在しています。テレビをつければAIに関する報道が溢れています。あなたのスマートフォンには、AIに関する未読のメッセージや文章が溜まっている可能性が高く、印刷媒体に残されているものは、あれこれのAIに関する話題について意見を述べる自称専門家達で溢れバランスを欠いています。それから、ソーシャルメディアのことは忘れてください。あなたが選択したプラットフォームは、「AIの賛美」または「AIの邪悪」、という2つのテーマのいずれかに関する投稿、記事、そしてかつては”ツイート”という名称で通用していた”つぶやき”で一杯になるでしょう。

近頃は、言うなれば人工知能について、良いものと悪いものとを区別することが非常に困難です。多くの記事や投稿は説得力があるように聞こえるので、気が付くとAIに関する10,000語の記事、あるいは本を1冊読んでいることになるかもしれません。そして、頷き、理解がより深まったと思って読み終えると、次に読んだ記事でその前に読んだ記事や本が完全に誤りだと判明するだけです。過去4年以上に渡る私自身の研究の結果、他ならぬこの難問に行き当たりました。AIについて正式なトレーニングを受けて初めて、良いものとまったくの屑とを見定めることができるようになりました。

私自身の経験では、世の中にあるAIに関する質の悪い記事と、実際に私の理解を深めてくれる本当に優れた思慮に富んだ記事の数は、約3対1の割合で分かれています。悪い記事は本当に悪いものになる傾向があり、AIに対する被害妄想や恐怖の炎を煽る記事は、あらゆるテクノロジーの最大の敵、すなわち不信の種を蒔くことで実際に全体として世界に害を及ぼします。そして、その不信感があらゆる試みにおいて革新を妨げます。良い記事は、AIに関する知識と理解を深め、この分野に携わる人々が、すべての人に利益をもたらす新しいモデルや手法を発明する助けとなります。しかし、良いものと悪いものの違いをどうやって見分けるのでしょうか?

記事執筆の根本理由

私は、TechChannel及びその初期のIBM Systems Magazineに、IBMのAIXオペレーティング・システムの話題について何年も記事を書きました。それらの記事で私がやろうとしたのは、自分の環境でオペレーティング・システムを最大限に活用する方法について、明確かつ簡潔で役立つヒントを提供するために(相当な量の)誤った情報を断ち切ることでした。

記事は好意的に受け取られ、今も記事に関する応援メールを受け取り続けています。人工知能に関するこの記事シリーズでも同じことをしたいと思います。私は、このテーマに対する理解を深め、何か役立つものを独自に作成し始めることを促進するための核心に到達するために、そのような下らぬものをすべて断ち切る方法を示したいと思います。さて、どのようにすればいいでしょう?

実践第一です。私のAIX記事では、システムのパフォーマンス、あるいは可用性における混乱に繋がった状況を診断する方法を読者に伝えることで、その哲学を実践しました。次に、それらの課題を解決する方法を段階的に読者に説明しました。また、読者のシステムが正常に動作している場合には、テスト機器で人為的にエラーを誘発し、万一問題が発生した場合、その問題を解決する方法を示しました。これらの記事でも同じ哲学に従います。

自分のノート・パソコンまたはデスクトップPCのWindowsおよびLinuxコンピューターを、自分用の本格的なAIシステムに変え、AIの様々な側面をすべて詳しく調査できるようにする方法を説明する予定です。私の目標は、AIに関する有益で役に立つ情報と、役に立たない(場合によっては有害になり得てしまう)情報との違いを見極められるようにすることです。

AIを始めよう

さあ、始めましょう。まず、はじめに、皆が陥りがちなAIに関する根本的な誤解は、「AIをインスタンス化して実行するには非常に処理能力の高い、高価なハードウェアが必要である」ということです。これは、一般的に「癌を診断したり、今後100年間の気象グラフを描いたり、新しい特効薬を開発したりする場合」には当てはまりますが、StaplesやBest Buy(どちらも米国で有名なオンライン・ショッピング・サイト)で買える、典型的なノート・パソコンやデスクトップPCでも「自らのAIシステムを構築し、AIの理解を大いに助けるような、小さなモデルを実行する」という目的はうまく果たせます。自らのAIシステムをセットアップする方法を2つの主要な部分に分解して説明します。

まず、自らのAIシステムを構築し、Microsoft Windowsオペレーティング・システム上で実行する方法を説明します。私がこれを最初に行おうと選んだのは、ほとんどの人がWindowsを実行しているシステムを少なくとも1つは持っており、ほとんどが仕事や気晴らしのパワーアップのためのシステムだろう、と思われるからです。

次のパートでは、Linux上にAIをセットアップする方法を説明します。近頃はIT分野に携わる私達のほとんどは、少なくともLinuxに(一時的なものだったとしても)馴染みがあり、仕事でLinuxを大規模に使用しているのならば、本社にもLinuxシステムが置かれている可能性が高くなります。Linuxに関する重要なことは、Windowsよりも、よりきめ細かい機能を使ってAIシステムの基本をいじり回すことができることですが、WindowsはGUI機能により、使い始めるのがずっと容易です。私個人の意見では、AIを学ぶことに関しては、一方のオペレーティング・システムが他方のオペレーティング・システムよりも目に見える程優れているわけではありません。どちらでも、そのすべての機能を理解し始めるためにシステムの最重要部に十分に入り込むことができます。

また、AIシステムをセットアップしたとき、そして、これらの記事を読み進めるにつれて、Windowsバージョンが提供するGUIフロントエンドを除けば、両方のOSでAIがほぼ同じに見えることに気付くでしょう。学習している内容は移植可能、つまりセットアップと使用方法はどちらのOSでもほぼ同じになります。自分のWindowsノート・パソコンまたはデスクトップPCで学んだ内容をLinuxシステムに直接適用できるでしょう。そして、ハードウェア要件はOSに関係なくほぼ同じです。それを念頭に置いて自らのAIを作成する場合、どのようなハードウェアが実際必要でしょうか?

ハードウェアとAI

私はこの記事シリーズをLenovo Ideapadノート・パソコンで書いています。16ギガバイトのRAMと1テラバイトのハード・ドライブを備えたIntel Core i7プロセッサーで動作します。ハード・ドライブはSSDであり、これは自らのモデルのロードとチェックポイントを開始する際にパフォーマンスを向上させるのに役立ちますが、決して必須ではありません。私のオペレーティング・システムはWindows 11 Proですが、OSにこだわる必要はありません。遥かに遡ること、なんとWindows7 Homeエディションまでであれば、非常にうまく機能します。

Windowsに対して行う必要がある唯一の変更は、ページング・ファイルのサイズを増やすことでしょう。データセットをAIモデルにロードすること、および、そのモデルにチェックポイントを設定することは、どちらも特定のPythonベースのソフトウェア・パッケージを使用する場合と同様、状況によっては大量のページングを行うので、私はページング・ファイルのサイズをインストールされているRAMのサイズの少なくとも2倍に増やします。例えば、16GBのRAMを備えた私のノート・パソコンには32GBのページング・ファイルがあります。

自分のAIの仕事をするときに私が思い付く唯一の警告は、他の事をしていないときにこの仕事のための時間を確保することです。データセットの読み込み中またはモデルのトレーニング中に映画を観ようとすると、映画再生の品質にがっかりすることになります。また、使っているウイルス防御策が、何はともあれ最新のものであることを確認するようにと言う必要があります。学習を進めていくにつれて、AIを適切にセットアップするために入手する必要があるソフトウェア・パッケージのほぼ100%がオープンソースであることに気付きます。AI開発ソフトウェアの大部分はコミュニティ主導型であるため、お金を払う必要のあるパッケージは殆どありません。

個人的には、AIパッケージにウイルスが含まれているという話は聞いたことがありませんし、実際に4年間使用しています。しかし、それが安全かどうかは誰にも分かりません。ですから、Windows上でAIを実行するときのウイルス防御に対する常識的なアプローチは、そのようなシステムを他の用途に使用する場合と同様に有効な提案となります。

AI用語

次は何でしょう? おそらく、AIシステムをセットアップして使用するときに、必要になる基本的な用語に馴染みがない可能性があります。さらに悪いことに、インターネットにアクセスしていくつかの検索エンジンにAI用語の定義を尋ねたところ、それらの定義には大きな食い違いがあることに気付きました。ではどうするべきでしょうか。以下の事をためしてみてください。

「ChatGPT」について聞いたことがありますか? ChatGPTは、OpenAIによって開発された大規模言語モデル(Large Language Model、略して「LLM」)です。ChatGPTは、クッキーのレシピから量子力学に至るまであらゆるものについてトレーニングされた大規模なAIシステムです。ChatGPTは爆発的に使用されている検索エンジンであり、AI関連のほとんどの事柄に関して「最終権威」と言えるものです。ここに無料でそれにアクセスできるAPIがあります。

ChatGPTにアクセスするために取得できるアカウントには2つのタイプがあります。1つ目は、自分自身のAI学習をし始めるために使用できる無料アカウントで、ほとんどの用途に使えます。GPTモデルの最新バージョンを入手できる有料アカウントもあります。この最新バージョンのモデルは、あなたが尋ねる可能性の有るあらゆる質問に対してより深く完全に答えます。

また、有料アカウントでは、無料アカウントよりもアクティビティーの優先度が高いので、質問により早く、かつ、より詳細に回答するようになっています。この有料アカウントは現在月額20ドルです。私自身の仕事の中で、この有料アカウントが計り知れないほど貴重であることが分かり、これまでChatGPT有料アカウントがなかったらどのように生きてきたか分かりません。有料アカウントははこの体験を学ぶのにとても適しています。ChatGPTの「GPT」が何を意味するのかについても知りたいと思うかもしれません。ChatGPTにそれ自身を自身の言葉で定義させてみましょう。この定義で、ChatGPTは自分自身を「スマートロボット」と呼んでいます。

「Generative Pre-Trained Transformer(生成的な事前トレーニング済みのトランスフォーマー)」(GPT)は、このように(あらゆる種類の素材の巨大な集成上で)トレーニングされた一種のスマートロボット、より正確にはコンピューター・プログラムの装飾的な名前です。 「生成的」とは、応答を自身で作成または生成できることを意味します。「事前トレーニング済み」とは、あなたが話しかける前に既に多くのことを教えられていることを意味します。「トランスフォーマー」は、言語を大変よく理解し、かつ生成するために使用される特別な技法です。

「生成的な」モデルは、自らが考え、質問に対してまったく独自の答えを導き出しているように見えます。驚くべきことに、AIは自分自身で「考える」ことはないのです。このように独自の考えを出しているように見える現象は、「汎用人工知能(AGI)」と呼ばれるまったく異なるタイプのAIの範囲にあるものです。AGIは、映画「2001 年宇宙の旅」のHAL 9000コンピューターのようなものです。多くの企業がAGIに取り組んでいますが、実際に実装されるのはできたとしても何年も先の話です。

私達が自分用の機器上に構築できるAIは、人間のように「考える」ことはなく、「アルゴリズム」と呼ばれる非常に複雑な数式を通じて情報を処理します。これらのアルゴリズムは、機械が思考できるかのように一見独創的に見える答えを外挿して定式化しますが、この印象は誤りです。AIは基本的に、一連のステップ (すなわち「ノード」) に用意された極めて複雑なアルゴリズムを使用して問題を解決します。ノード内で、各アルゴリズムは質問に対する部分的な答えを見つけ出し、その部分的な答えを次のノードに渡し、次のノードはその答えに新たな答えを加えるという具合に、完全な回答が形成されるまで、同様の操作を延々と続けます。

現時点では、この記事で紹介した「モデル」や「生成的(ジェネレーティブ)」などのいくつかの技術用語さえも、おそらくあなたには馴染みのないものです。AI研究は専門用語が多く、日常のIT活動の通常の範囲を遥かに超える概念を表現しています。したがって、すべての記事で私が使用する用語の定義を説明しようと思います。これらの定義は私自身のものではなく、最終権威であるChatGPTによって与えられたものです。それは自分自身、そしてAI一般のことを最も良く知っており、人間よりもはるかに詳しく自分自身を説明できます。そこで、AIの学習を始める際に必要となる用語を以下でいくつか紹介します。

モデル

AIの『モデル』は、ケーキを焼くためにレシピに従うのと同様に、コンピューターが意思決定や予測を行うために従うレシピであると考えてください。しかし、このレシピは料理のためのものではなく、情報処理のためのものです。AIモデルは、その設計内容に応じて、テキスト、画像、音声などの大量のデータからこのレシピを学習します。例えば、たくさんの本を読んだり、写真を見たりすることで学習するかもしれません。

アルゴリズム

AIや機械学習における「アルゴリズム」は、コンピューターに問題の解決方法やタスクの実行方法を正確に伝える一連の命令またはレシピのようなものです。あなたが誰かにパズルの解き方を教えると想像してみてください。 「角のピースから始めなさい」「同じ色のピースを探しなさい」など、従うべき手順を段階的に与えます。AIと機械学習の世界では、アルゴリズムがコンピューターに対して同様のことを行います。アルゴリズムは、予測を行ったり、言語を理解したり、画像を認識したり、データから学習したりするために必要な手順をコンピューターに指導します。

ニューラル・ネットワーク

問題を解決したり、新しいことを学習したりするためにオン/オフする小さなランプ (これを『ニューロン』と呼びましょう) の束から小さな脳を作ることができるとしたら…と想像してみてください。これらのランプはそれぞれ他の明りに信号を送信でき、点灯するか暗いままにするかを指示します。これらの多くのランプを様々なパターンで接続することで、脳が顔を認識したり言葉を理解したりするのと同様に、経験から学習できるネットワークを作成します。AIにおける『ニューラル・ネットワーク』は、この想像上のランプのネットワークの様な働きをします。これは、人間の脳が学習し、意思決定を行う方法を模倣するように設計されたコンピューター・プログラムです。もちろん、この場合の『ニューロン』は実際のランプではなく、情報を処理してネットワーク内の他のコード片にそれを渡すことができるコード片、というわけです。


本記事は、TechChannelの許可を得て「AI on Your Laptop: Part 1」(2024年4月15日公開)を翻訳し、日本の読者にとって分かりやすくするために一部を更新しています。最新の技術コンテンツを英語でご覧になりたい方は、techchannel.com をご覧ください。

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