2025年3月10日 アンドリュー・ウィグ
人々がAIモデルのトレーニングと実行に何が必要かと想像する場合、大量のGPUを搭載する特別仕様のサーバーが導入されたデータセンターを思い浮かべるでしょう。一方、中堅・中小企業を高い信頼性で支えるIBM i は、一般的なイメージではAIと同義ではないかもしれません。しかし、一般的で日常的なビジネスを確実に遂行するIBM i の特性はAIに適合する、とIBM Championたちは言います。
ノースウェスタン州立大学のIBM i に焦点をあてたAI開発のクラスで教えるモンティ・チコラ氏は、「IBM i は古い機械である、と理由づけて非難したがる人々がいます」と語ります。たしかに、現在IBM i と呼ばれている製品の原点は、1988年に発表された「AS/400」という名称のハードウェアに組み込まれていたOSでした(OSとしての名称は「OS/400」)。
AS/400の発表当時にReal Vision Software社でプログラミングを担当していたモンティ・チコラ氏は、「IBM i がこれほど長く現役で使われ続けている理由は、堅牢な製品だからです」とも語ります。

自社が持つデータを知る
「Pythonを学び、モデルがどのように構築されるかを理解するとともに、自社が持つデータを本当に理解していれば、自社IT環境向けのAI開発にもう少しで手の届く所まで来ています」とAIの研究者であるトーマス・デコルテ氏は語ります。
そして、IBM iユーザーの場合、トーマス・デコルテ氏が言及した「自社が持つデータの理解」を既に満たしている可能性が高いでしょう。
トーマス・デコルテ氏は続けて語ります。「IBM iユーザーは、データを完璧に理解しています。我々はエンドユーザーのことをパワーユーザーと呼びます。その理由は、データの見え方、データの構造、データの接続方法を知っているからです。結果として、非常に優れたユースケースへの移行も可能でしょう」
トーマス・デコルテ氏によると、一般的に、AI開発で企業や組織が直面する傾向にある最初の課題は、十分な量の質の高いデータの入手です。実際、推論のためのデータの量が足りなかったり、データの品質が高くない場合があり、追加でデータを収集する必要が生じます。
一方、モンティ・チコラ氏は、IBM iは良質なデータが得られる優れたAIマシンなので、推論のためのデータに関する課題に直面する可能性は低いと語ります。
現在、IBM iを利用している企業の多くは、AS/400の導入以降、環境を変えることなく長年にわたって活用し続けています。「多くの場合、IBM i ユーザーはデータを捨てることはありません。結果として、膨大な量のデータをIBM i ユーザーは保有しているのです」とモンティ・チコラ氏は語ります。
すなわち、優れたデータベースであるIBM Db2 for iに、長期間にわたって継続的に保存されている膨大な量のデータがあるからこそ、IBM iがAIモデルの構築に非常に適していると言えます。また、プラットホームの安定性とセキュリティー面での堅牢性は、IBM i を稼働させるIBM PowerサーバーでAIを実行する最大のメリットとも言えるでしょう。
8,700件の事例
IBM i のAIへの適合性は、単なる理論以上のものです。
「IBM i では、8,700件ものAIの活用事例があります。ある顧客におけるすべての記録をAIエンジンに投入すると、信じられないほど素晴らしい分析結果が瞬時にAIから返ってきます」とモンティ・チコラ氏は語ります。
モンティ・チコラ氏によると、「顧客の電子メールを読みとり、適切な部署に転送」「購買パターンの分析」「請求書へのインデックスの作成」など、ユースケースは多岐に渡るそうです。
ビジネスにおけるAIの実務的な適用方法を熟知しているトーマス・デコルテ氏は、「私は、定期的にIBM i に特化したAIプロジェクトに携わっています。そして、そのようなプロジェクトを真剣に検討したいと考える企業は数多くあります」と語ります。
AIの導入を検討している企業が最初に取り組む選択肢の1つは、社内文書を学習させたチャットボットを作成し、従業員が様々な社内プロセスについてチャットボットに問い合わせられるようにすることでしょう。そして、この選択肢は、社内プロセスに関する従業員の質問に回答するだけでなく、社内プロセスそのものの改善に役立つ可能性があります。
「例えば、20から50の社内文書を用いてRAG (検索拡張生成)モデルを構築し、従業員向けのチャットボットを作成します。そして、多くの人が特定のプロセスについて似たような質問をする傾向がある場合は、おそらくプロセスのどこかで何かを変更する必要があるでしょう」とトーマス・デコルテ氏は述べています。
また、企業や組織がAIの導入を検討し始めるきっかけの1つは、自社の大きな課題に対する熟考です。もっとも、熟考に対する解決策の1つが、AIを活用した「報告書や情報の要約」である可能性もあります。
十分な性能と考慮すべき注意点
IBM i が稼働するIBM Powerサーバーは、AIの活用に必要となる十分な処理能力を提供するため、どのようなAIのトレーニングも技術的には可能です。ただし、時としてGPUの力が求められる場合があるとトーマス・デコルテ氏は指摘し、次のように語ります。
「GPUによる並列計算の恩恵を受けないアルゴリズムを用いるユースケースの場合は、IBM i上だけでAIを実行できます。ただ、IBM Powerサーバーがフル稼働している場合は、AIタスクをクラウド事業者が提供するGPUなどにオフロードする選択が必要となる可能性があります」
このことは、AIの全社的な本格活用時に留意するべき注意点ではありますが、十分な量の質の高いデータが蓄積されているIBM i は、AIの活用と実践に最適なプラットホームであることに変わりはありません。
本記事は、TechChannelの許可を得て「Potential Energy: How IBM i Can Be a Launchpad for AI」(2025年3月10日公開)を翻訳し、日本の読者にとって分かりやすくするために一部を更新しています。最新の技術コンテンツを英語でご覧になりたい方は、techchannel.com をご覧ください。
IBM i というプラットホームは、AIとは縁遠い存在というイメージを持たれている方も多いと思います。しかし、IBM i に関係が深いIBM Championの方々の意見は少し違うようです。
IBM i 上には、AIモデル構築に欠かせないデータが大量に蓄積されており、世代ごとに強化が進むIBM Powerプロセッサーが提供する性能を考慮すれば、IBM i はAI活用の出発点として適したプラットホームと言えるのです。(編集部)