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2024.06.27

【AI】第8回「今日のAIはなぜ落第点なのか?」

【AI】第8回「今日のAIはなぜ落第点なのか?」

AIは今日のITの世界で最もホットな話題の1つですが、現在提供されている「AIなるもの」はAIに求められている内容からはまだ遠く、進化の程度としては1970年代末頃のIT進化の状況になぞらえることができると主張している人もいます。確かに、現在のAIが発展途上であることは否定できませんが、用途や用法を上手に選べば十分役に立つだけでなく、私達の生活を大きく変える可能性をもつこともまた事実です。読者の皆さんは、この主張をどう受け止めるでしょうか?
iTech-Ed社のトレバー・エドルス氏が、“Why Today’s AI Is Failing”と題した記事を通じて、汎用人工知能ならびに人間の脳の分析から、AIの専門家が学べることについて説明します。(編集部)

2024年4月16日 トレバー・エドルス

AIがあらゆる所にある時代に、このような表題を記事につけるなんて馬鹿げていると思われるかもしれません。多くの人々が、ChatGPTまたはGemini(かつてのBard)を少なくとも試しています。AIに関する数百の記事と新たな報告書があります。各国の政府はAIの使用に制限をかける方法を探っています。では、なぜAIは上出来ではないと示唆する人がいるのでしょう?

AIの歴史

その疑問に答える前に、1970年代末に時間を戻させてください。当時を知らない人々のために説明すると、それはメインフレームと呼ばれるコンピューターが中心だった時代であり、業務や用途に特化したコンピューティングが始まった時代でした。単一の機能をもち、他の装置に接続されていないワープロやその他の装置を企業や組織は購入し始めていました。企業が、文書作成、表計算、イラストレーション等あらゆる種類のアプリケーションを1台の装置で処理できるPCを購入し始めたのはその数年後のことでした。1970年代は、単機能コンピューターから汎用的コンピューターへの移行期であり、電話やタブレット等を含む今日私達が知っているコンピューティングの世界が始まった時代でした。

次に、その当時のAIの世界を見てみましょう。1997年にIBMのコンピューター「Deep Blue」が、チェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフとの6回戦に勝利(訳注:2勝1敗3引分け)したことを覚えている人が多いかもしれません。Jeopardyというテレビのクイズ番組でのIBMの成功について聞いたことがある人々もいるかもしれません。今日のAIは、それができる事には秀でていても、それ以外の事は何もできない高度に特化した機械をもつ1970年代のコンピューティング環境に非常に似ています。

現代的AIをトレーニングする

それ以来、AIは大きく進歩しました。今日では生成AIは、テキスト、画像、ビデオなどの高品質のコンテンツを作成または生成できます。しかし、制限要因は残っています。AIは事前トレーニングを行う必要があり、トレーニングされた内容については非常に優れていますが、それ以外のことでは役に立たないという事実です。

AIのトレーニングには、AIにデータを入力してパターンを認識させ、次いで意思決定や予測を行わせることが含まれます。これは次のようにして実行できます。

  • 強化学習: コンピューターのアプリケーションは、何かを正しく行ったときに報酬を受け取ります。それは、ゲーム、ロボット工学、自動運転車に使用されています。
  • 教師なし学習: コンピューターはデータを探索し、それ自身のパターンと関係を見つけます。
  • 教師あり学習: ソフトウェアはラベル付きデータを与えられ、与えられた答えと自身の答えとを照合し、そのアルゴリズムを適切に修正します。

しかし、繰り返しますが、AIはトレーニングされた事だけを知り、それ以外の事は何も学習できません。それが人工知能と人間の知能の大きな違いです。

AIと脳

幼い子供が1年目に、自分自身で物事を探索したり試したりすることによって、どのように多くのことを学ぶのか考えてください。年齢が上がるにつれて子供達に教えることができますが、彼らは依然として自分自身で行動し、物事を発見します。その事と自ら学習を開始できないAIとを比較してください。AIには興味または動機付けが欠けています。欠けているのは、基礎となる汎用人工知能 (以下、「AGI」と呼びます) です。

AIと脳との違いをより良く理解するために、人間の脳がどのように機能しているかを考えてみましょう。人間の脳は基本的に2つの部分に分けられます。1つは反応が非常に早い部分で、食物摂取、闘争または逃走、生殖行動などの活動を集中的に担っています。もう1つは、皮質柱に分類されるニューロンと呼ばれる小さな同一の構成要素でできているように見える部分で、合理的または論理的な活動を担っています。人間の脳には約150,000の皮質柱があります。これらの小さな構成要素が多く追加されることと、脳の特定の部分を成長させる能力により、人類は現在の形態に進化できました。

理性的な脳は、見たり聞いたり感じたりしている事について、複数の予測を同時に行います。予測を行えるようになるためには、脳は過去の経験を使用して、その環境で何が正常であるかを学習しなければなりません。脳は、その持ち主である人が動くにつれて1つの世界のモデルを作成し、感覚入力がどのように変化するかに気付きます。そして、それぞれの動きに対して、理性的な脳は次の知覚がどのようなものになるかを予測できます。また、予測が正しくない場合は、脳内のモデルが更新されます。

人間の脳の機能について上述してきた内容をふまえると、AIモデルにとっては、AIが自ら学習し、AIが住む世界のモデルを作成し、もっと高速に動作するために、次に何が起こりそうかをどのような状況でも予測する方法を作成することを意味します。また、予測が間違っていた場合、AIはAIが住む世界のモデルを更新できるべきです。そして、このような能力全体を網羅できることによって、限定的なAIは汎用的なAGIになります。

神経科学の視点を通してAIを探求する

「A Thousand Brains: A New Theory of Intelligence」という本では、皮質柱は学習機械であるだけでなく予測能力もあると想定しています。また、理性的な脳のどこにでも存在する「すべてのものをモデル化した参照フレーム」を使用して予測を行うと、この本では想定しています。

AIに取り組む人々がこの脳のモデルを採用および使用して、新しいタイプのAIマシンを作成できれば、AGIをどのようにして作るのかという問題は解決していたでしょう。皮質柱に相当するものには予測的な性質があるので、AGIはトレーニングをすることなく即座に答えを出し、新しい事を自ら学習できます。それはまた、より多くの皮質柱を追加することであり、知的能力をさらに持つ可能性もあります。

仮想アシスタントに代表される単一のタスクや同様のタスクに秀でた限定的なAI(弱い AI)は、コンピューティングが1970年代後期に戻ったようなものです。一方、人間の知能を再現することを目的とした汎用的なAI(強いAI)もあります。現在、Anthropic、DeepMind、OpenAIなどの企業が、まさにAGI作りに取り組んでいます。

私が提案していること(そして、最終的に私自身の質問への答え)は、脳内で発見された皮質柱に類似した何かがハードウェアまたはソフトウェアによって実現できるまで、人間の知能を再現するという目的はうまく達成されないということです。ハードウェアまたはソフトウェアによって皮質柱に類似した何かが実現できれば、私達は独自の情報を探し出すことができる十分に実用的なAGIを手にできることになります。そして、その実用的なAGIは情報を用いて合理的な決定を下したり、潜在的に悲惨な状況を予測して防止できるかもしれません。AGIが実行できる可能性がある(限定的なAIができることよりも)遥かに多くの事は、一般の人々にとって大きな利益となる可能性があります。そして、いずれは今日のラップトップコンピューターや携帯電話と同様に、AGIも当たり前のものになるだろうと私は期待しています。


本記事は、TechChannel掲載記事「Why Today’s AI Is Failing」(2024年4月16日公開)を翻訳し、一部更新したものです。

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