2025年10月10日 アンドリュー・ウィッグ
IBMが独自AIの力の源として位置付けて、IBM z17がCPUとして搭載しているIBM Telum IIプロセッサーに、AIワークロードに特化したコンパニオンとしてSpyreアクセラレーターが加わり、10月28日に一般利用可能になる予定です。

IBM Spyreアクセラレーター
IBMは、メインフレームにおけるAI推論のための新機能を実現するために、2025年10月7日、フロリダ州オーランドで行われたTechXchangeカンファレンスでSpyreアクセラレーターの一般出荷開始日を発表しました。5nmプロセス技術で製造されたPCIe接続のSpyreアクセラレーターは、AI処理に最適化された32個のコア、256億個のトランジスター、128GBのLPDDR5(Low Power Double Data Rate 5)メモリーを搭載し、300TOPS*1のAI処理能力を発揮します。
Spyreアクセラレーターは、Linux専用メインフレームであるIBM LinuxONE 5でも利用可能です。さらに、2025年12月初旬には、Power11プロセッサー搭載サーバーにおいても利用可能となる予定と発表されました。メインフレーム(IBM z17、IBM LinuxONE 5)には最大48枚、Power11プロセッサー搭載サーバーには最大16枚のSpyreカードをそれぞれ取り付けられます。
*1 「Trillion Operations Per Second」の略。1秒間に1兆回の演算を行う能力を示す単位。
データを自社内に保持したままAIを導入
Spyreアクセラレーターにより、オンプレミスにおけるAIワークロードの処理能力が向上します。オンプレミスでAIワークロードを処理できることから、企業はAIに学習させる重要なデータを自社内に保持できます。その結果、AI関連の処理のためにデータを他の場所に送信する際に生じるセキュリティー上の危険を回避できます。
IBMの製品管理担当のシニア・バイスプレジデントであるティナ・タルキニオ氏は、SpyreアクセラレーターはIBMの顧客の特殊な要件への対応に役立つだろう、と記者会見で述べました。
「Spyreアクセラレーターは、セキュリティー、レジリエンス、スケーラビリティーのニーズにおいて非常にユニークなニーズをお持ちの当社の顧客に役立ちます」と同氏は語りました。 
タッグチーム・アプローチ
Spyreアクセラレーターの主要なアイデアの1つは、マルチモデル処理です。マルチモデル処理により、メインフレーム(IBM z17、IBM LinuxONE 5)は様々なタイプのモデルを使用してAIワークロードを処理し、複雑なケースに対してより正確な結果の提供が可能となります。マルチモデル処理とは、例えば、ワークフローによっては、Telum IIプロセッサー上で小さなモデルを使って初期推論を実行することが想定されます。そして次に、信頼度が低いスコアをSpyreアクセラレーターに移し、より大きなモデルを用いて2回目の推論を行う、ということです。
2024年8月にSpyreアクセラレーターとTelum IIプロセッサーが発表された後、IBMフェローでIBM Systems DevelopmentのCTOでもあるクリスチャン・ヤコビ氏は、「オリジナルのTelumプロセッサーはIBM z16に搭載され、メインフレームに初めてAI処理をもたらし、Telum IIプロセッサーは計算能力をオリジナルのTelumプロセッサーの4倍に向上させています」とTechChannelで語りました。
Telumプロセッサーは、数値セットなどの構造化データに関わる予測分析のAIワークロードに特化しています。そして、Spyreアクセラレーターによって、メインフレームは大規模言語モデル(LLM)が初めて実行可能になったと、ヤコビ氏は言います。
ハードウェアとソフトウェアの相乗効果
IBM z17とIBM LinuxONE 5の新たな能力(Telum IIプロセッサーとSpyreアクセラレーター)を実現する基盤となるのは、最適化されたソフトウェア・スタックです。具体的には、IBM watsonx Assistant for Z、AI Toolkit for IBM Z and IBM LinuxONE、Machine Learning for IBM z/OSであり、いずれの製品もIBMの製品設計アプローチに沿っています。
2025年4月にIBM z17が発表された際、IBMセミコンダクターズのゼネラルマネージャーであるムケシュ・カレ氏は、「IBMはフルスタック企業です。半導体からチップ設計、システム、低レベルソフトウェア、オペレーティング・システム、ミドルウェア、アプリケーション、そしてコンサルティングまで、あらゆるスタックを統合しています」と述べました。
Spyreアクセラレーターは、2019年に設立された、IBMのハードウェア研究センターから生まれた初めての商用製品です。同センターは、「毎年2.5倍の性能向上を目標とし、10年間で1,000倍の向上という長期ビジョンに掲げています。」とカレ氏は語りました。
ソフトウェアの発表
一方、IBMはエージェントAIの重視を継続しており、TechXchangeでAIエージェントの管理とガバナンスのためのフレームワークであるIBM watsonx Orchestrateの新たな機能強化を発表しました。watsonx Orchestrateの新たなツールは以下の通りです。
- AgentOps:エージェントの可観測性とガバナンスのレイヤーを提供し、ライフサイクルの透明性を確保します。リアルタイム監視とポリシーベースの制御を可能にします。
 - Agentic workflows:複数のエージェントとツールを順序付ける、標準化され、再利用可能なフロー
 - Langflow integration:ドラッグ&ドロップ式のビジュアルビルダーです。現在は、テクニカル・プレビュー段階ですが、10月下旬に一般提供開始予定です。
 
TechXchangeで行われたもう一つのAI関連の発表は、Project Bobと呼ばれる「AIファースト」の統合開発環境です。これは、Anthropic Claude、Mistral、Llama、IBM GraniteなどのLLMを活用しています。現在テクニカル・プレビューの段階にあるProject Bobは、以下を実現すると約束しています。
- 自動化されたシステム・アップグレード、フレームワーク移行、大規模なコードベース全体にわたるコンテキスト認識型のコード・リファクタリングにより、大規模なモダナイゼーションを容易に実現
 - コードの生成とレビュー:アーキテクチャー・パターン、セキュリティー要件および法令順守義務への対応
 - エンド・ツー・エンドのオーケストレーション:モダナイゼーション、テスト、改善タスクに対応
 - セキュリティー支援:ソフトウェア開発サイクルの早期段階でのテスト(「シフトレフト」)、迅速なFedRAMP*2強化、耐量子暗号への移行促進
 
*2 米国連邦政府機関が導入するクラウドサービスに要求される、セキュリティーを評価・認証するための標準プロセス
AI変革は続く
TechXchangeで新製品を発表する際に、IBMソフトウェアの上級統括責任者であるディネシュ・ニルマル氏は、「私達はこれまで経験したことのないビジネス変革の真っただ中にいます。これは私達の交流、コミュニケーション、商取引のやり方を大きく変えようとしています。そして、それは日常的に起きています」と語りました。
本記事は、TechChannelの許可を得て「IBM’s Spyre AI Accelerator Gets Oct. 28 GA for Mainframes, December Debut for Power11」(2025年10月10日公開)を翻訳し、日本の読者に必要な情報だけを分かりやすく伝えるために一部を更新しています。最新の技術コンテンツを英語でご覧になりたい方は、techchannel.com をご覧ください。


				





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IBMからAIアクセラレーターを搭載したPCIeカード「IBM Spyreアクセラレーター」が発表され、IBM z17とIBM LinuxONE 5向けには2025年10月28日から、Power 11プロセッサー搭載サーバー向けには2025年12月上旬から利用可能になることが分かりました。
IBM Spyreアクセラレーターを活用することで、自社データを用いたAIによる処理をクラウドに移動することなく、オンプレミスで行えるようになります。(編集部)