2025年7月25日 アンドリュー・ウィッグ
IT環境の管理経験がある方々が理解しているように、システムの維持管理には綱渡り的な側面があります。すべてのシステムを停止した上で実行する所定のクリーンアップ、最新のソフトウェア・アップデートのダウンロードと適用などは、短期的な生産性の低下を伴うものの、システムの長期的な安定性の確保につながります。あるいは、システム・インフラストラクチャーが内包するリスクを増大させることになりますが、課題への対応を先送りにしてすべてのシステムを稼働させたままにする、という選択肢もあります。いずれにせよ、企業や組織がこのように相反する選択を迫られる機会はますます増えていくことでしょう。
IBMの製品管理およびインフラストラクチャー統括責任者のバルガブ・バラクリシュナン氏は、IBM Power11プロセッサー搭載サーバーを紹介する際に、「修正、パッチの適用、アップデート、アップグレードといったシステム・インフラストラクチャーのメンテナンス活動の頻度とペースは、指数関数的に増加しています」と語りました。
IBMは、このような現実を踏まえ、Power11プロセッサー搭載サーバーのセールスポイントの1つとして、計画的ダウンタイム・ゼロ機能を強調しています。ハイブリッドクラウド、Power Virtual Server、ライブ・アップデート、自律的パッチ適用などから成る計画的ダウンタイム・ゼロ機能は、ITチームがコア業務に集中できるよう支援します。この計画的ダウンタイム・ゼロの実現にあたり、Power11プロセッサー搭載サーバーは他のセールスポイントと同様に、AIを活用しています。
IBM Concert
Power11プロセッサー搭載サーバーの計画的ダウンタイム・ゼロ機能は、IBM Concertを基盤にしています。IBM Concertは、アプリケーション同士のつながりを理解し、推奨事項を提示して、アクションを自動的に行うための、生成AIを組み込んだ自動化プラットフォームです。そして、IBM Concertは、スタック全体にわたる脆弱性を検出します。
アップデートがあると、IBM Concertが起動して実行されます。IBM Concertはアップデートの準備状況を検証するとともに、アップデートをダウンロードします。さらに、アップデートの影響を受けないように、別システム上のパーティションにワークロードを移動させ、その後、適切なタイミングで元に戻すという一連の作業が行われます。
IBM i Migrate While Active
IBMはアプリケーションの移行に伴う負荷を軽減する取り組みも行っています。「過去2年間、IBMはオンプレミスのIBM PowerサーバーからIBM Power Virtual Serverへの移行と、オンボーディングにおける体験の改善に多大な投資を行ってきました」とIBM Power の製品管理統括責任者であるドリス・コンティ氏は発表イベントで語りました。
昨年末にリリースされた「IBM i Migrate While Active」は、システムを停止することなく本番運用を継続しながら、オンプレミスで稼働しているIBM iのクラウドへの移行を実現します。
ドリス・コンティ氏によると、IBM i Migrate While Activeの使い方は以下のとおりです。
- アクティブ状態での移行時に、パーティションのミラーリングを選択
- ソースコードとソースノードの詳細を提供し、オンラインでアクセス可能であることを検証
- ソースコードとソースノードの詳細を提供し、オンラインでアクセス可能であることを検証
「レプリケーションの進行中も状況を確認できます。すべては、本番システムが稼働したまま実行されています」とドリス・コンティ氏は述べるとともに、「Power11が、オンプレミスでもクラウドでも同じアーキテクチャーで動作することも、IBM iのクラウドへの移行の助けになります」と付け加えました。
IBM i Migrate While Activeは、「計画的ダウンタイムは選択肢ではない」という考え方を推進するために存在しています。そして、ビジネスの回復力を強化するために、IBM Power Virtual Serverを採用される企業が増加する傾向にあります。
災害復旧とセキュリティー
回復力の観点でも、計画外のダウンタイムへの考慮が不可欠です。
IBM Power Virtual ServerではPower11 プロセッサー搭載サーバーも利用できるので、オンプレミスの代替としてだけでなく、オンプレミスの回復力強化にも利用できます。 ドリス・コンティ氏は1日5万件の配送を管理している英国の物流会社Proximity社の事例を紹介しました。「Proximity社は、災害復旧対策としてIBM Power Virtual Serverを導入。現在、同社は復旧速度を50%速め、コストを80%削減できており、すばらしい成果を上げています」
データ侵害(注1)の平均コストは488万ドル(2024年データ侵害のコストに関する調査)に達しており、侵害コストの削減と迅速な復旧が不可欠となっています。 Power11 プロセッサー搭載サーバーには、セキュリティー支援機能の1つとして、1分未満でランサムウェアを検出するIBM Power Cyber Vaultが含まれています。 IBM Power Cyber Vaultは、Power 11 プロセッサー搭載サーバー、ストレージ・ソフトウェア、Expert Labsを統合し一体化したソリューションで、保護、検出、対処、復旧を行うために設計されています。IBM Power Cyber Vaultは、企業や組織がセキュリティーポスチャー(注2)の態勢を評価するために、盲点、脆弱性、重要なワークロードを特定する支援も行います。
量子コンピューティングの脅威
先を見越すことは強力なセキュリティーポスチャーの重要な要素であり、Power11 プロセッサー搭載サーバーは迫りくる量子コンピューティングによるセキュリティー上の脅威にも対応しています。 量子コンピューティングはまだ実用段階ではありませんが、将来的には現在の暗号化標準を破る能力を獲得すると予想されています。バルガブ・バラクリシュナン氏は、次のように述べています。「Power11プロセッサー搭載サーバーは量子時代に備えるべく、最新の高度な暗号化アルゴリズムと暗号方式を採用することで、セキュリティーと法令順守を両立させます」
Bosch社でグローバルSAPインフラストラクチャーの責任者を務めるシニアマネージャーのクリスチャン・ドゥエムラ―氏は、60か国以上にサービスを提供するデータセンター・ネットワークの運用に伴う法令順守の責任を引き合いに出し、Power11プロセッサー搭載サーバーのセキュリティーへの配慮に感謝の意を表しました。
「耐量子暗号化技術や、Power Cyber Vaultのようなソリューションにより、進化するサイバー脅威に対抗するとともに、今後の導入が予想される規制基準に対応できます。IBM Powerがイノベーションの推進を継続していることは本当に心強いです」
(注1) データ侵害(data breach):企業などがもつ重要なデータが無断で外部に不正流出すること。 (注2) セキュリティーポスチャー(security posture):組織のセキュリティー体制の現状を表す指標で、総合的にサイバー攻撃への防御力を評価するためのベースになる。
本記事は、TechChannelの許可を得て「IBM Trumpets Power11’s Zero Planned Downtime Capabilities」(2025年7月25日公開)を翻訳し、日本の読者に必要な情報だけを分かりやすく伝えるために一部を更新しています。最新の技術コンテンツを英語でご覧になりたい方は、techchannel.com をご覧ください。
これまで、保守作業のためにシステムを計画的に停止することは、やむを得ないこととして受け入れられてきました。しかし、IT基盤の重要性が増すにつれ、計画的ダウンタイムは大きな課題になっています。
IBMは、これを解決する1つの答えとして、Power11プロセッサー搭載サーバーの計画的ダウンタイム・ゼロ機能を発表しました。この機能がどのようなもので、ITシステムの管理、運用の世界をどのように変えるのか、ぜひ、本記事をご一読ください。(編集部)