この2~3年の内に、IBM i のお客様はオープンソース技術を活用してきました。ここで、ジェシー・ゴルジンスキー氏がオープンソースの動向と優位性の議論に加わります。
ニール・ターディ
IBM i上のオープンソース・ソリューションの価値を評価する1つの方法は、その技術を使って実際のIBM iのお客様が何を達成しているかを考えることです。しかし、オープンソースの影響を本当に理解するには、(多分、自宅の周りを見回すために文字通り一歩だけでも)離れて見る必要があります。オープンソースは、スマホで銀行口座の残高をチェックしたり、台所から車のエンジンを掛けたりできるようにする技術を支えています。そうしたことを超えて、多くの有名企業が自社の社内運営においてオープンソースを頼りにしています。こうした企業にはIBMやMicrosoftのような巨大テック企業や、(10月に1株77ドルで公開された)GitLabだけでなく、あなたが絶対に予想しないであろう企業も含まれています。
オープンソースは今や完全に主流であり、その卓越した力と普及度によって、アプリケーションのモダナイゼーションを行おうとしているIBM iのお客様にとって一層心を引き付けるものになっているというのが現実です。
「過去5年の間に、IBM iおよび産業界全体にとってオープンソースは最前線の技術になりました」とIBMでIBM i上のオープンソースに対するビジネスアーキテクトを務めるジェシー・ゴルジンスキー氏は語ります。「私達は賢い車、賢い冷蔵庫およびそうした類の賢い製品をもっています。私はスマホで私のヒュンダイ車のエンジンをかけることができます。というのも、私の車はインターネットと通信し、それを通じて信号を受信するためにメッセージブローカーと対話する大量のコードを有しているからです。それはオープンソースの力を借りています。オープンソースは、まさに今こうしたことを行う方法です。」
恐怖・不確実性・疑念(FUD)と戦う
オープンソースは、コンピュータの初期の頃からずっと存在していたと主張することができます。1950年代にはSHAREというユーザーグループが、IBMと一緒にIBMのメインフレームコンピュータで使用するためのアプリケーションやユーティリティプログラムをソースコードの形で公開するために働きました。Zendサーバ、Node.jsのJavaScript実行時モジュールまたはPythonプログラミング言語のことを考えたなら、IBM iのお客様は間違いなく何年もの間オープンソースの恩恵に与ってきました。しかし、ほんの最近(論理的な節目は2018年の初め)になって、オープンソースは真の意味でIBM iで軌道に乗りました。これが、IBM iの世界でオープンソースに関する一般的な誤解が続いている理由です。たとえば、「オープンソフトウェはセキュアなの?」という疑念です。「悪い奴がコードを見ることができるので、オープンソースはともかく本質的にセキュアでないというこの大きな誤解があります」とゴルジンスキー氏は言います。「しかし、あなたは銀行の個人口座をどこの銀行に作っていますか?チェースですかCITIグループですか?私は彼らのウェブポータルの情報を引き出し、あなたの情報を保護するために彼らがどこでオープンソースを使用しているかを示すことができるからです。これらはオープンソースのセキュリティを信頼している有名な利害関係者2社に過ぎません。」彼は続けてInternet Bug BountyおよびOpen Source Security Foundation (OpenSSF)のようなイニシアチブを指摘します。これらは脆弱性を識別し、ベストプラクティスを確立、促進することでオープンソース・ソフトウェの改善に努めている業界横断的な協力組織です。
もちろん、そのことはその技術が難攻不落であるとか、オープンソース・ソフトウェアを使ってオープンソース・ソリューションを実装する際にセキュリティは心配ないとか示唆するものではありません。重要な点は、オープンソースが「オープンであること」を恐れる本質的な理由はないということです。
加えて、「アプリケーションのモダナイゼーションや、それらが何か新しいことをするように変更を行うことを巡って、恐れ、不確実性そして疑念(つまりFUD:Fear, Uncertainty, and Doubt)があります」とゴルジンスキー氏は言います。「そして、それは立ち止まって『私は悪意ある者達に対して攻撃進路を開いているのだろうか』と考えるのは全く無理もないことです。そうした疑問は抱くべきです。しかし朗報は、オープンソースが大きなユーザーコミュニティに支援された業界標準のセキュリティ問題解決策と、無料で入手可能な情報をもたらしてくれるということです。あなたはスタック・オーバーフローやもっと信頼できる情報源のような場所で、あらゆる種類のリソースを見つける筈です。ですから、あなたはそれを正しく実行しているという大きな自信をもってセキュリティの実装を始めることができます。」
IBM iを導入している企業は、オープンソース開発を支援しているサポート構造にも同様に自信を持つべきです。前の文章で「サポート」という言葉には2つの意味があります。第一に、実際のソフトウェアサポートがあります。これはIBMが推奨し、IBMがダウンロードできるようにしている商用のオープンソース・パッケージです。次に、全体として世界から発せられているオープンソース・サポートがあります。
「フォーチュン500に顔を出す多くのテック企業がオープンソース・セキュリティに投資しています。それは広範なコミュニティです」とゴンザレス氏は言います。「一例がGoogle社の『Airbnbオープンソース』です。実際にAirbnbは、大きなテック企業以外のオープンソース分野で最も倫理的で貢献度の高い会社の1つです。人々はJavaScriptカンファレンスに行き、Airbnbのブースを見て、『何だって?彼らは私達にニューヨークにある安い貸アパートを売ろうとしているのか?』のように思う筈です。いいえ、彼らはオープンソースを使って彼らが行っているすべての素晴らしい事を話すために実際そこに居ます。なぜなら、それが、彼らが自分達のオープンソースの蓄積上で実行している事だからです。彼らはオープンソース・コミュニティが良いビジネスであることを理解しています。」
オープンソースを考えた場合、ITスキルの欠如は一部の人々を躊躇させる最終要因です。確かに求人サイトに広告を打ち、1日で2ダースのPHPプログラマーからの問い合わせを受けることができます。しかし、ヘアバンド全盛期の大昔に書かれたRPGコードを実行している中核的なビジネスアプリケーションを、PHPプログラマーがどうやって理解、ましてや管理できるでしょうか。
「多分あなたが最も耳にするのは次のような事でしょう:適切なスキルをもった人達を見つけるのは難しい」とゴルジンスキー氏は言います。「それは、とりわけIBM iではそうですが、この心配はIBM iに特有のものではありません。業界全体的に、人々はコアビジネスを理解しているスキル有る人達を探すことに不安を覚えています。しかし、オープンソースが助けとなります。なぜなら、積み重なったオープンソース技術の山は、今日のビジネスアプリケーションを破壊することなく拡張するために使用できるからです。新しいウェブサイトを構築する、APIを公開する、またはDevOpsを実装するために、何かを書き直す必要は必ずしもありません。採用しようとしている技術に必要なスキルをもった人達をただ探す必要があるだけです。」
モダナイゼーション・ツール
新しいプロジェクトにまさに着手しようとしている人々、または単純にオープンソース開発を始めた人々のために、ゴルジンスキー氏は以下の提言を行っています:
最新のプログラミング言語を使用する:Python、Ruby、PHPおよびその他のありふれた言語は、コミュニティー・リポジトリにある数多くのモジュールにユーザーがアクセスできるようにしています。Node.jsのnpmリポジトリだけでも、100万以上のオープンソース・パッケージが収められていると言われています。「これは、あなたがIoT、マイクロサービスまたはどんな物であれ探しているのなら、大変な仕事の大半は既に済んでいるようなものであることを意味します」とゴルジンスキー氏は言います。
以下のツールを調査する:Node-REDは、IoTデバイスとアプリケーションを統合するためのブラウザベースのローコード・プログラミングツールです。技術屋の標準からしてさえも、Apache Camelは要約するのが難しいです。しかし、それによってユーザーは同じAPIを使用している完全に異なるシステムを統合することができます。この能力は、どの様なモダナイゼーションを行うにしたとしても明らかに価値があります。
もちろん、多数のIBM i のお客様はオープンソースを使って既に素晴らしい事をしています。2社だけ名前を挙げると、Wijnen Van Maele社とCras Woodgroup社です。ibm.comのITインフラストラクチャの項にもっと多くの例があります。
ゴルジンスキー氏は、IBM iにおけるオープンソースの最近の成長を変革的であると述べています。「間違いなく採用率は上昇していますが、とりわけIBM iでは信じられない程の変革が起きています。IBM iを使用している組織は、人工知能(AI)、IoT、マイクロサービス、量子コンピューティングと共に最先端の事をやっています。更に重要なことに、彼らはそれを本番業務で行っています。それが現代の仕事のやり方です」と彼は言います。
「オープンソースが主流」という表題は、IBM iユーザーから見るといさかか大袈裟に聞こえるかも知れませんが、ITの世界全体を俯瞰した場合、オープンソースが大きな存在になっている事実は否めません。実際、現代においてプログラミングの学習を始める場合、オープンソースの開発環境と言語を抜きには考えられません。このような環境で育った新人達がITシステムを担うようになっている現代では、プラットフォームに関係なくオープンソースをITシステムの重要な構成要素と捉え、これを活用する姿勢が求められるのは自然な流れだと言えるでしょう。(編集部)