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2025年7月25日(金)開催 『Power for the Next Era:AI時代を動かす信頼と進化の基盤へ』
IBM Power:ハイブリッドクラウド戦略の中核を担うサーバー
1. 不確実性の時代における経営課題
ビジネス環境は、これまでにないほど不確実性が高まっています。企業は柔軟性と持続可能性を高め、変化への対応力を強化することが必要です。
変化への迅速な対応には、市場や技術の変化に即応できる体制と組織の意思決定プロセスのスピードアップが求められます。
根拠ある意思決定には、信頼できるデータが必要であり、信頼できるデータによって、市場の変化を予測し、先手を打つことが可能になります。 その中で、経営者の皆さまが共通して抱えている課題が「データをどう守り、どう活かすか」ということです。
2. IT基盤に求められる新たな役割
「データをどう守り、どう活かすか」、そのためにIT基盤には、2つの大きな役割が求められています。
1つ目は、データを守るために、信頼性・安全性の高い環境で、データの漏洩や損失を防ぐセキュリティーです。セキュリティー事故がないことが、企業のブランドの信用を高めることになり、法令遵守とコンプライアンス対応ができているという企業評価につながります。
2つ目は、データ分析やAIの活用によりデータを価値に変えるための、柔軟でスケーラブルな環境です。ビジネスの状況に応じ、分析対象や手法の変化への対応が必要であり、データ量の急増に対応できることが重要だからです。
この2つを両立するために、IBMは「ハイブリッドクラウド」という考え方を提唱しています。
3. ハイブリッドクラウドの価値
ハイブリッドクラウドでは、オンプレミス環境とクラウドサービスを組み合わせ、それぞれの特性を活かしてIT基盤を最適化するアプローチ(手段)を提供します。
機密性の高いデータはオンプレミスで厳格に管理しつつ、AIや高度なデータ分析などの柔軟性が求められる処理はクラウドを活用することで、セキュリティーと拡張性の両立が可能となります。また、データ主権や法令遵守といった要件に対応するためには、業界ごとの規制に準拠した信頼性の高いオンプレミス環境でのデータ管理が不可欠です。
既存のオンプレミス資産を有効活用しながら、クラウドの処理能力を必要に応じて拡張することで、ビジネス環境の変化にも迅速に対応できます。クラウドの柔軟性は、技術革新や市場の変化に対する高い適応力を企業にもたらします。市場や使用する技術の変化への対応力をクラウドの柔軟性で確保できます。
ハイブリッドクラウドは、「データを守る」と「データを活かす」を両立させる、柔軟かつ持続可能なIT基盤です。変化の激しい現代において、企業が守るべき情報資産を確実に保護しながら、成長や競争力強化といった攻めの領域で俊敏に行動するための最適なIT戦略となります。
4. ハイブリッドクラウド戦略の中核を担う「IBM Power」
このハイブリットクラウドを実現するIBMのエンタープライズサーバーには、IBM zとIBM Powerがあります。エンタープライズサーバーの目的は、組織や企業の業務を安定的かつ効率的に支えるための中核的なITインフラを提供することです。
IBM zは、メインフレームとも呼称されるエンタープライズサーバーです。特に高い信頼性・可用性・セキュリティー・拡張性が求められる大規模企業や官公庁、金融機関などで広く使われている大規模システム向けのサーバーです。
一方、IBM Powerは、エンタープライズサーバーに求められる高いレベルの性能・信頼性・拡張性をバランスよく実現でき、様々な分野で、様々な規模で、様々な場所で、企業の中核業務を支えています。業務停止が許されないシステムを支えるサーバーとして、オンプレミスでもクラウドでも利用できます。
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IBM Powerの利用シーン
- 人事、会計、生産管理、販売管理、顧客管理などの基幹業務のためのシステムとその業務向けデータベース・サーバー
- 情報システムの運用担当者が少人数になりがちで、高信頼性が求められる中堅企業の基幹システム
- 生産現場で、AI推論を用いた検品システムを実現するエッジサーバー
- プラットフォーマーがSaaSで提供する業種特化型アプリケーションの基盤
- 半導体工場の生産ラインを管理するIBM製のMES(製造実行システム)「IBM SiView Standard」のためのシステム基盤
- 医療現場を支えるIBM製の電子カルテシステムのシステム基盤
- パッケージシステムの組み込みサーバー
IBM Powerの使用用途は、業務停止が許されないシステムを支えるサーバーとして多岐に渡っており、豊富な製品ラインナップでお応えいたします。
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あらゆる業種業態のあらゆる規模のお客様に広くご使用頂いているIBM Power
- 既存資産(AIXやIBM i)を活かしつつ、DXを進めたい企業
- 高可用性・高セキュリティーが求められる業界
- AIやデータ分析を業務に組み込みたい企業
- 業務に合わせて、サーバーのサイズを選びたい企業
IBM Powerは、企業の基幹業務を支えるために設計され、高性能・高信頼性・高拡張性を兼ね備えたエンタープライズサーバーです。オンプレミスでもクラウドでも利用可能で、業務停止が許されないミッションクリティカルなシステムに最適です。
信頼性・柔軟性・拡張性を兼ね備えたIBM Powerは、「守るべきものを守りながら、攻めるべき領域で俊敏に動く」というハイブリッドクラウド戦略において、最適なエンタープライズサーバーです。
したがって、IBMは、IBM Powerに開発投資を続けています。
5. IBM Power11の登場と未来
そして、この度、私たちは「IBM Power11」を発表いたします。
Power11は、AI時代にふさわしい自律型ITインフラとして設計されており、より高いパフォーマンス、柔軟性、セキュリティーに加え、「計画メンテナンス時にシステムを止めない」世界を実現しています。
Power11は、これからの企業の成長を支える、まさに「未来の基盤」となる存在です。
IBM PowerとIBM Power11の概要と特長
1. IBM Powerの使命と価値~なぜ、IBMはPowerを作り続けるのか
IBM Powerは、企業の基幹業務を支えるために設計されたエンタープライズサーバーであり、企業が求める「高性能(処理能力)」「高可用性(止まらない)」「高セキュリティー」「拡張性」を提供します。
IBM Powerサーバーは、1台に複数の物理サーバーを仮想サーバーとして集約できるとともに、システム単体としても高い拡張性があります。製品ポートフォリオは、ハイエンドからエッジまでと幅広く、生産管理、顧客管理、製造ライン管理、データ分析などあらゆる業務で利用されています。
また、2021年2月に火星への着陸に成功した『パーサヴィアランス』を筆頭とする、歴代のNASAの火星探査機に搭載されているRAD750というCPUが、IBM Powerアーキテクチャーに基づくIBM PowerPC 750をベースにしたプロセッサーであることからも分かるように、IBM Powerは高い信頼性を実現しています。
つまり、IBM Powerは単なるサーバーではなく、業務の中断が許されない企業にとって、「安心な基盤」なのです。
2. マルチOS対応による柔軟性
IBM Powerは、3つの主要OSに対応しており、業務の多様性や既存資産の活用に柔軟に対応できます。
- IBM AIX:IBM独自のUNIX。高信頼性が求められる金融・製造業などで活用され、OracleのDBサーバーで差別化されています。
- IBM i:COBOLやRPGで書かれた基幹業務アプリケーションを長年にわたり支え続けている、システム管理・運用が組み込まれた統合OSです。企業の規模を問わず、アプリケーションがお客様自身によってカスタマイズされ幅広く活用されています。
- Linux:AI活用や製造ラインにおけるエッジサーバーとして活用されています。また、SAP HANAのインメモリーDBにも最適化されています。最新のオープン技術に対応しており、AIを含めたISVソリューションの品揃えが豊富です。
IBM Power向けに独自の仮想化機能であるIBM PowerVMが提供されており、1台のPowerサーバー上で複数のOSを同時に稼働させられます。IBM PowerVMは、個々の仮想化環境を分離するとともにシステムのコアやメモリーのパフォーマンスを最適に調整します。
IBM AIXやIBM iの既存資産を活かしながら、Linux環境でOSSに代表される最新技術にも対応できるのがPowerの強みです。
3. 継続的な進化と計画的な製品開発
IBMは、IBM Powerを単発の製品ではなく長期的な戦略製品として位置づけており、企業におけるIT向けの投資が計画的に行えるよう、常に3世代先までのロードマップを提示しています。
また、IBM Powerは、プロセッサーの各世代で時代のニーズに応じた設計がなされています。
- IBM Power8 ビッグデータへの最適化
- IBM Power9 RedHat OpenShiftへの最適化とSAP HANAへの対応
- IBM Power10 AI推論処理のパフォーマンスを向上
このように、IBM Powerは時代の変化に合わせて進化し続けるプラットフォームなのです。
4. Power11の革新性と次世代対応
IBMが発表した次世代の Power11プロセッサーを搭載する新たなIBM Powerサーバーは、AI時代にふさわしい「自律型」のAI対応サーバーであり、計画的なダウンタイムを不要とすることでエンタープライズITの新たなスタンダードを確立します。
AI がデジタル変革を牽引している時代において、俊敏性と効率性だけでなく、進化するサイバー脅威に対する回復力も備えたITインフラが不可欠となっています。同時に、最も機密性が高いデータの安全性を確保しつつ、市場の変化を予測し、ほぼリアルタイムで対応できなければなりません。
新たなIBM Powerサーバーは、フルスタックのイノベーションにより、より多くの価値を提供するとともに、ビジネスの継続性を高めます。
- 更新やメンテナンスのための計画的なダウンタイムゼロを実現
- 耐量子暗号化による高度なサイバーレジリエンスを提供し、機密データを保護し、厳しいコンプライアンス基準に対応
- ランサムウェアを 1 分以内に検出し、数分でデータを回復する機能を提供することで、脅威に迅速に対応し、財務リスクと企業イメージへのリスクを最小限に抑制
- エネルギー消費を大規模に最適化し、TCO、炭素排出量、データセンターのフットプリントを削減
Power11は、シンプルな常時接続の実現と、ハイブリッドクラウドの柔軟性を提供するために構築されました。そして、意図的なワークロード配置により、複雑なハイブリッドクラウド環境全体での俊敏な成長を摩擦レスにサポートします。
Power11により、「止まらない」「守れる」「進化できる」という3つの価値を提供します。
5. ハイブリッドクラウドとAIへの対応
IBM Powerがパブリッククラウドとして展開しているIBM Power Virtual Serverでは、Power11の出荷開始と同じ日からPower11プロセッサー搭載サーバーを実装します。つまり、お客様は出荷開始の日からオンプレミスと同じPower11プロセッサー搭載サーバーとOSがクラウドでも利用できるため、アプリケーション変更なく、サイジングも同じ環境をシームレスに活用できます。
IBM Power Virtual Serverでは、IBM PowerサーバーとサポートするOSが実装しているセキュリティー機能に加え、IBM Cloudのセキュリティーにより、ハイブリッドな環境を安心してご利用いただけます。
IBM Power Virtual Serverは、SAP RISE Hyperscalerプラットフォームとして認定されているため、IBM Cloudで利用可能な250以上のソリューションと連携できます。例えば、IBM watsonxとの連携であれば、AIソリューションを開発し、業務にAIを迅速に組み込めるようになります。
さらに、AIアクセラレーターであるIBM Spyre Acceleratorを使用することで、基幹業務データが存在しているオンプレミス環境で、AIを取り入れた業務をより高いパフォーマンスで実行できるようになります。
IBM Spyre AcceleratorはAI集約型ワークロード向けに構築されており、IBMのハードウェア・ポートフォリオ全体に組み込まれています。そして、Power11はIBM Spyre Acceleratorを搭載する最初のIBM Powerサーバーであり、2025年末に実装予定です。
生成AIのアクセラレーションの搭載を実現するIBM Powerは、AI時代の基幹業務を支える「インテリジェントな基盤」なのです。
6. 既存資産の保護とその先へ
IBM Powerは、COBOLなどの既存資産を守りながらDXを推進できる数少ないプラットフォームです。そして、お客様が、基幹業務を長年支え続けたCOBOL資産を利用し続けることを望まれている場合、IBM PowerのサポートOSであるIBM iとIBM AIXは、両者ともCOBOLコンパイラーを提供および実行できます。
そして、お客様は、常に3世代先までのロードマップが提示されているIBM Power上で、COBOL資産を安心して稼働させ続けられます。さらに、IBM Power上で業務の目的に合わせた変革やDXを推進できます。また、200以上提供されているISV製品から最適な製品を選択および連携することで自社の業務に活用できます。
IBM Powerは、過去の資産と未来の技術をつなぐ「橋渡し役」でもあります。
Power11の各種仕様
1. Power11サーバーの製品ラインアップ
Power11は、用途に応じた4つのモデルを展開しています。
- ハイエンド:E1180 最大性能・最大拡張性を誇るフラッグシップモデル
- ミッドレンジ:E1150 性能とコストのバランスに優れたモデル
- ローエンド/エッジ:S1124など 省スペース・コスト効率を重視したモデル
[ハイエンド/ミッドレンジ/ローエンドの特長]
- 最大30コア/ソケット、最大4.4GHzの高周波数
- Power9比で最大40%、Power10比で最大45%の性能向上
- Power Virtual Server(4拠点)への即時展開により、クラウド利用が可能
- シリアル番号継承や既存資産活用による投資保護(E1180/E1150)
2. Power11 パフォーマンスとアーキテクチャーの進化
[パフォーマンス強化]
- Hypervisor スケジューリングの革新により、より高いシステム使用率でパフォーマンスの向上を実現
- シングルスレッドからシステム全体まで性能を最適化
- TDP増加により、周波数が最大200MHz向上
- スペアコアの導入で可用性を向上
[メモリー]
- OMI DDR5 (高帯域幅・低レイテンシの次世代メモリー技術)) 帯域幅が3倍、容量が2倍
[電力効率]
- 7nmプロセス技術と2.5D Integrated Stacked Capacitor インターポーザー:電力効率を大幅改善
- 改良された冷却機構とVRMにより、最大35 %の電力供給向上
- WOFテーブル((Workload Optimized Frequency)により性能と消費電力の最適バランスを実現
[エネルギー効率]
- x86サーバー比でワットあたり2倍の性能
- 新エネルギー効率モードで最大28%の効率向上(パフォーマンスモード比)
- 使用頻度に応じた電力制御で自動的に消費電力を削減
3. AI対応力とアクセラレーション技術
[ハードウェアによるAI強化]
Power11は、パフォーマンス要件を満たすオンチップアクセラレーションを備えたAI対応インフラストラクチャを提供
Spyre Accelerator:生成AIや複雑なAIモデル向け
- 1カードあたり300+ TOPS、32コア
- 最大2 drawers/システム、合計256 AI最適化コア
- Power11はSpyreを初搭載したPowerサーバー
- on-chip accelerationの最大10倍のパフォーマンス
MMA(Matrix Math Accelerator):AI推論処理を高速化
- Power10から継続搭載
- MMAはお客様の業務に組み込まれた推論処理に利用
[ソフトウェアとクラウド連携]
AI機能のための包括的なソフトウェアスタックを提供します。
watsonx Code Assistant for IBM i:RPGコードの説明・変換を自動化
過去の資産のコード解析をし、新しい技術を取り込むためのソース変換を支援できることから、RPGプログラマーの知見をサポートできます。
watsonx.data:オンプレミスでのAI・分析データ活用を支援(提供予定)
お客様の扱うデータの中で、個人情報や売上データなどセキュリティーやコンプライアンスに対応する必要があるものは、お客様の環境に配置することが望まれます。このご要望に応えるために、watsonx.dataをオンプレミスで利用できるよう取り組んでいます。
Red Hat OpenShift AI:MLOps(機械学習の運用)の実装をサポート
IBMや独立系ソフトウェアベンダーのオープンソース・ソフトウェアやツールキットも使用して、AIツールの柔軟性と選択肢を提供します。
Power Virtual Server:IBM Cloud上でのAIワークロード展開をサポート
4. 自律型ITとゼロプランドダウンタイム(ZPD)
- IBM ConcertによるAIオーケストレーションで、計画的なメンテナンスを完全自動化
- HMCからの自動アップデート:ファームウェア、VIOS、IOアダプターを一括管理
- 仮想マシンの自動退避・復帰により、アプリケーションを停止せずに更新可能
- IT管理の工数を数週間→数分に短縮、ビジネス中断ゼロ
5. 自律型エラー解決による運用効率の革新
- 自動初期障害データキャプチャ(FFDC)とAI支援ワークフローにより、サポートケースの作成・ログ収集・根本原因分析・修復を自動化
- 最大8時間のサポート解決時間短縮、IT管理者の負荷軽減、ダウンタイムとコストの最小化
- Call HomeサービスやHMC UIを通じた柔軟なログ送信手段
6. ハイブリッドクラウドとビジネス変革
- Power11は、オンプレミスとクラウドの両方でAI・業務ワークロードを最適化し、柔軟なシステム構成と高い投資対効果を実現します。
- セキュリティーやコンプライアンス要件にも対応
- 柔軟な構成と高い投資対効果でDXを加速
関連リンク
筆者
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日本アイ・ビー・エム株式会社 |
2025年7月8日(米国時間)、IBMはPower11プロセッサーを搭載するIBM Powerサーバーの新製品群を発表しました。
本記事は、日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 IBM Power事業部長 原 寛世様に寄稿いただいたものであり、現在のIT基盤に求められる新たな役割を踏まえ、IBM Powerが果たす役割が紹介されます。そして、IBMがPowerサーバーを作り続ける理由・使命・価値に言及するとともに、Power11プロセッサーを搭載するIBM Powerサーバーのテクノロジーが紹介されます。(編集部)