今回は2回にわたり、ACS(IBM i Access Client Solutions)の全体像を他のエミュレーター製品との比較も交えご紹介します。
次回第7回では新しいACSとRDiの連携機能もご紹介したいと思います。
当記事に含まれないACS機能について当連載の第二回に記載していますので併せてご覧ください。
ACSの登場
Windows95時代から長年IBM iユーザーの標準的なエミュレーター・クライアントツールとして利用されていた、IBM i Access for Windows(IAW)が2019年4月に製品サポート終了となりました。
IAWはWindows8.1までをサポートし、Windows10以降の正式なサポートはありません(Windows10以降をIAWがサポートする計画もありません*1)。
IAWのサポート終了と相前後して登場したのがACS(IBM i Access Client Solutions)です。ACSは2015年から提供されています。
ACSはWindows10以降の環境でIBM i の最も標準的なエミュレーター・クライアントツールと位置付けられています。
それだけに留まらずACSはLinux、macOSを含め、Java 8.0が稼働するあらゆる環境で利用可能な汎用的なソフトウェアでもあります。
2026年9月時点の最新バージョンACS 1.1.9.6はIBM i 7.3以降をサポートしています。
図1. IAWとACS
*1 参考:5770-XE1 IBM i Access for WindowsのWindows 10以降のサポートについて(英文)
https://www.ibm.com/support/pages/ibm-i-access-windows-supported-operating-systems
参考までに、IBMのサポートはありませんが、Windows10でIAWが使えているケースもあるようです。
一方で、障害が多発し使用に耐えないというケースもあります。
あくまで自社責任としてIAWをWindows10でご利用いただくことは可能ですが、将来Windows10パッチ適用等で突然動作しなくなる懸念もありますので、ACSなど正式サポートのあるソフトウェアへの移行を推奨いたします。
ACSとIAWとの違い
ACSのライセンスはIBM i Access ファミリー(5770-XW1)のひとつ、5733-XJ1 IBM i Access Client Solutionsとして提供されます。IBM i Access Family (5770-XW1) は、2022年6月より OS標準として無償提供されるようになりました。
従来のIAWも5770-XW1ファミリーのひとつで、ライセンス番号は5770-XE1でした。
ちなみに、5770-XW1ファミリーのその他のソフトウェアとして5770-XH2 IBM i Access for Webも提供されていましたが、2023年9月30日をもってサポートが終了しています。
ACSはIAWと同様に、クライアント側にインストールして使用します。また、ACSは他のIBM i Accessファミリー製品と同じIBM iホスト・サーバー・ジョブを使用します。ACSは、以前広く利用されていたIAWの主要な機能を引き継ぎつつ、さらにいくつかの機能が拡張・強化されています。5250エミュレーター機能に加え、PCからIBM iへ接続し、各種操作を行うための豊富な機能を提供しています。
なお、IAWで提供されていたWindows専用の管理GUIであるSystem i Navigatorは、現在ではWebベースの「IBM Navigator for i」として提供されており、WebブラウザからIBM iの各種管理機能へアクセスできます。
| ライセンス番号 | 名称 | ||
|---|---|---|---|
| 5733-XJ1 | IBM i Access Client Solutions | Java8以降で稼働 Win, Linux, macOS, etc.. |
IAWと同様にクライアント側に導入し使用 |
| 5770-XE1 | IBM i Access for Windows | Windows 8.1までをサポート | サポート終了済 |
| 5770-XH2 | IBM i Access for Web | IBM i 上にライセンス導入し,HTTPサーバーインスタンスに構成付加 PCブラウザー、モバイルデバイスからアクセス |
サポート終了済 |
表1. IBM i Accessファミリー
ACSがIAWと最も異なるのは、そのアーキテクチャーです。
IAWがWindowsデスクトップアプリとして開発されたのに対して、ACSは全く異なるJavaベースで開発されている点です。
実はACSのエミュレーター機能は、同じくJavaベースのエミュレーター製品であるIBM Host On-Demand(HoD)をベースにしています。
最新版のACSにおいてはベースとなったHoDには含まれない、IAWと同様なIBM i をより効率的に利用するための様々な機能が提供されています。
一方で、Windowsデスクトップアプリではない為、IAWでは可能だったドラッグアンドロップによるIBM i スプールファイルのWindowsテキストファイルコピーが使えない、印刷機能についてはIAWと完全な互換性が保たれていない等の制約も存在しています。*2
*2参考 : IBM Support : IBM i Access – Client Solutionsの基本的な情報のポータル(英文)
https://www.ibm.com/support/pages/ibm-i-access-client-solutions
参考情報として、表2.にIAW/ACS/PCOMMの主要機能比較を掲載します。
| 機能 | IAW | ACS | ACSに関する補足説明 | HACP (PCOMM) |
|---|---|---|---|---|
| ディスプレイ・セッション | ||||
| セッションファイル形式 | .ws | .hod | マイグレーション機能あり | .ws |
| キーボードのカスタマイズ | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
| マクロ | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
| ワークステーションIDの指定 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 外字 | 〇 | 〇 | Javaのフォント選択の機能に依存して動作します。 Windows環境のJavaの場合、自動的に、外字ファイルを利用する機能が備わっています。 |
〇 |
| 罫線 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 両面印刷 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| PCオーガナイザー (STRPCO) |
〇 | 〇 | 〇 | |
| 自動再接続 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| サインオンのバイパス | 〇 | 〇 | 〇 | |
| タブ表示 | × | 〇 | ACSでの拡張機能 | × |
| ウォーターマーク | × | 〇 | ACSでの拡張機能 | × |
| データ転送 | ||||
| IBM i からのダウンロード | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
| IBM i へのアップロード | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
| パッチ実行 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 表示装置への結果の出力 | 〇 | 〇 | ✕ | |
| ファイルへの結果の出力 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| データ転送Excelアドイン | 〇 | × (代替機能を提供) |
アクティブ・スプレッドシートへの入出力操作が可能 | × |
| エクセル列タイトルに列見出しを利用 | × | 〇 | ACSでの機能拡張 | ✕ |
| データ転送ファイル形式 | ||||
| テキスト(.txt) | 〇 | 〇 | デフォルトの文字コードはUTF-8 互換性の観点ではSift-JISではなくWindows-31jが推奨 |
〇 (ASCIIテキスト) |
| タブ区切りテキスト(.txt) | 〇 | 〇 | × | |
| コンマ区切可変長(.csv) | 〇 | 〇 | × | |
| エクセル形式-BIFF(.xls) | 〇 (3,4,5,7,8) |
〇 (8のみ) |
△ (Excel2000まで) |
|
| エクセル形式-XML(.xlsx) | × | 〇 | × | |
| OpenOffice (.ods) | × | 〇 | × | |
| プリンター・セッション | ||||
| HPT | 〇 | 〇 | Java印刷サービスを使用 | 〇 |
| PDT | 〇 | 〇 | プリンター機種により制約あり (IBM Pagesや557x系はACS初期Ver.より改善) |
〇 |
| GDI(プリンタードライバー印刷) | 〇 | 〇 (JPS) |
ACS V1.1.8.0以降でサポート | 〇 |
| 接続セキュリティー | ||||
| SSL | 〇 | 〇 | 〇 | |
| TLS | ✕ | 〇 | 〇 | |
| システム管理 | ||||
| LANコンソール | 〇 | 〇 | × | |
| HMC5250コンソール | 〇 | 〇 | 〇 | |
| System iナビゲーター | 〇 | ✕ | Navigator for iで代替 | × |
| SQL関連 | ||||
| SQL実行機能 | 〇 (iNavi) |
〇 | ACS Version1.1.5で対応済 | × (5250では可能) |
| SQLパフォーマンス・センター | 〇 (iNavi) |
〇 | ACS Version1.1.5で対応済 (Navigator for iと連携) |
× |
| Visual Explain | 〇 (iNavi) |
〇 | ACS Version1.1.5で対応済 | × |
| その他機能 | ||||
| 発信リモート・コマンド (RUNRMTCMD) |
〇 | × | 指定されたシステムにCLコマンドを送信。 コマンド行からのみ実行可能 |
× |
| 着信リモート・コマンド | 〇 | × | 着信リモート・コマンドは非搭載。 Microsoft社のリモート・デスクトップ・サービス、SSHなどで代替必要 |
× |
| スプールファイル出力 | 〇 (iNavi) |
〇 | スプールをテキストファイルでダウンロード | × |
| 入力文字妥当性検査 | 〇 | 〇 | デフォルトでは入力文字妥当性検査は‘オフ’となっているため、設定変更が必要 | 〇 |
| 5250接続中のPCスリープ回避 | 〇 | × | スリープをオフにするか十分に長い時間の設定が必要。 参考情報 |
〇 |
| 導入プログラム | 〇 (インストール必須) |
〇 (インストール不要/インストールも可) |
ACSで用意された導入プログラムで、Windows PCにインストールする際に、ACSの導入ディレクトリを変更不可 ただし、ACSはインストールせずに、任意のフォルダーに展開したACSをそのまま実行可能 |
〇 (インストール必須) |
| IBM i OSSライセンス管理 | × | 〇 | × | |
ACSの入手・導入
ACSは以下のサイトからダウンロード可能です。
http://ibm.biz/IBMi_ACS
上記URLにアクセスすると、IBMのMRS(Marketing Registration Services)というサイトにリダイレクトされACSのダウンロードページが表示されます。
ダウンロードにはIBM IDの登録(無償)が必要です。
2026年9月時点では図2のように様々なオプションがダウンロード可能です。
IAWと同様にエミュレータープラスαの機能を使用するだけであればベースモジュール(IBM i Access Client Solutions IBMiAccess_v1r1.zip) をダウンロードすれば良いでしょう。
もし、WindowsのODBCドライバーも使用したいのであればWindows アプリケーションパッケージ(ACS Windows App Pkg English(64bit) IBMiAccess_v1r1_WindowsAP_English.zip)もダウンロードが必要です。
ODBCドライバーはほかにLinux用、Mac用、IBM i 上のPASE用が提供されています。
図2. ACSのダウンロード
ACSはIBM i に適用するPTFとしても提供されています。ACS 1.1.8.6イメージは以下のPTFに含まれています。
- IBM i 7.6 / 5770SS1 / SJ11504
- IBM i 7.5 / 5770SS1 / SJ11505
- IBM i 7.4 / 5770SS1 / SJ11506
- IBM i 7.3 / 5770SS1 / SJ11507
上記のPTFをIBM i に適用すると、以下のIFSにACSのイメージが導入されます。(図3)
/QIBM/ProdData/Access/ACS/Base
図3. IBM i IFS上のACSプロダクトイメージ
なお、上記のPTF番号はACSのバージョン毎に変化します。今後発表されるであろう新バージョンや古いACSバージョンのPTF番号は、以下のURLからIBM Supportページにアクセスし、 ACS 1.1.9.16 という風にACSバージョンを入力することで検索可能です。(図4)
IBM Support https://www.ibm.com/support/home/
図4. IBM SupportページからACSのPTF情報を検索
ACS用のJAVAについて
ACSのJavaサポートに関する詳細については、以下のIBMサポート情報もご参照ください。
Java Options for IBM i Access Client Solutions?
かつては、Windows PCに導入するJavaはOracle Java一択の感がありましたが、オラクル社による企業ユース向けJava利用の有償化以降、様々な選択肢が考えられるようになりました。
近年では、無償で利用できるOpenJDKをベースとしたJavaディストリビューションを採用するケースも増えています。
OpenJDKをベースとしたJavaは、IBM、Red Hat、Amazonなど、さまざまなベンダーから提供されています。
ACSにはJavaが同梱されていません。そのため、ACSを利用するユーザー側で、使用するJavaのバージョンやディストリビューションを選択し、導入・管理する必要があります。また、Javaの導入方法を決定するとともに、修正プログラムやセキュリティー・アップデートを適用し、適切なレベルに維持することもユーザー側の責任となります。
ここでは、ACSで利用するJavaを選択する際のポイントを紹介します。
- 2018年6月にリリースされたACS 1.1.8.0以降は、Java8以上が必要です。
Javaには様々なバージョンが存在しますが基本的にはLTSサポート(ロングタームサポート)のJavaバージョンを推奨します。現在サポートされている LTS のバージョンは Java 8、Java 11、Java 17、Java 21 です。 ACSで使用する場合は、利用するACSのバージョンやOS、TLS/SSLなどの環境との互換性を確認したうえで、適切なJavaバージョンを選択します。
また、同じLTSのJavaバージョンであっても提供するベンダーによってサポート期間(サポート終了時期)にかなりばらつきがあります。
選択時にはその点も確認するのがよいでしょう。
(注: ACS は macOS 11.0 Big Sur 上の Java 8 を見つけることができない場合があります。このバージョンには、キー・ストロークの問題に関する最新の更新が含まれているため、 https://aws.amazon.com/corretto/ から Java 11 をインストールすることをお勧めします。) - 各社から提供されるJavaから任意のものを選択可能。ACSとして特別推奨するJDKはありません。
ちなみに、ACSで何らかのソフトウェア的な問題が発生し、ACSの問題と確認された場合は、Javaの種類を問わずIBMが対応を行います。
一方、Javaの問題と確認された場合にはJavaのベンダーが対応を行うことになります。
(一般的にはユーザーがJavaベンダーに対応を依頼することになると思われます。) - ACSで利用できる主なJavaの選択肢について
・Oracleは、JavaテクノロジーをOpenJDKとしてオープンなGPLライセンスのもとで提供しており、現在もその提供を継続しています。OpenJDKはIBM i Access Client Solutionsで利用可能であり、ACS環境における非常に有力な選択肢の一つです。
・一般的によく利用される選択肢の一つが、IBM Semeru Runtimesです。IBM Semeru RuntimesはOpenJDKをベースとし、JVMとしてIBM OpenJ9を採用しています。JavaのLTSバージョンである8、11、17、21、25は、以下からダウンロードできます。
https://developer.ibm.com/languages/java/semeru-runtimes/downloads/
・その代替として、IBM Eclipse Temurin(OpenJDKをベースとし、HotSpot JVMを採用)も利用できます。JavaのLTSバージョンである8、11、17、21、25は、https://adoptium.net/?variant=openjdk11&jvmVariant=hotspotから入手できます。
・IBMは、IBM Runtimes for Businessを通じて、IBM OpenJ9およびEclipse Temurin JVMに対するサポートを提供しています。
・2019年にAmazon Web ServicesはAmazon Correttoをリリースしました。Amazon Correttoも、無償で利用可能なマルチプラットフォーム対応のOpenJDKディストリビューションです。
Windows、Mac、Linux向けにJavaのLTSバージョン8、11、17、21、25が提供されています。Amazon Correttoは https://aws.amazon.com/corretto からダウンロードできます。
・Oracle Java 8のインストール可能なJREも有効な選択肢の一つであり、自動更新機能を利用できます。ただし、2019年以降のアップデートをIBM i Access Client Solutionsのような企業向けアプリケーションで利用する場合には、Oracleから商用ライセンスを取得する必要があります。
(Oracle Javaライセンスについて:https://www.java.com/en/download/release_notice.jsp)
ACS・Javaの導入パターン
ACSを実行するために必要なコンポーネントは1.ユーザー作成のACS構成定義、2.ACSモジュール(ACSのプロダクトイメージ)、3.Java に分類することができます。
そしてこの3つはWindowsクライアントPCのローカルディスク以外に配置することも可能です。
図7にそのバリエーションを図示します。図7のパターン6だけは構成不可の例です。
図7. ACSの導入パターン
《後編へ続く》筆者
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日本アイ・ビー・エム株式会社 多数の執筆記事を、iWorldに寄稿中。 |
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