今回は2回にわたり、ACS(IBM i Access Client Solutions)の全体像を他のエミュレーター製品との比較も交えご紹介します。
次回第7回では新しいACSとRDiの連携機能もご紹介したいと思います。
当記事に含まれないACS機能について当連載の第二回に記載していますので合わせてご覧ください。
ACSの登場
Windows95時代から長年IBM iユーザーの標準的なエミュレーター・クライアントツールとして利用されていた、IBM i Access for Windows(IAW)が2019年4月に製品サポート終了となりました。
IAWはWindows8.1までをサポートし、Windows10以降の正式なサポートはありません(Windows10以降をIAWがサポートする計画もありません*1)。
IAWのサポート終了と相前後して登場したのがACS(IBM i Access Client Solutions)です。
ACSはWindows10以降の環境でIBM i の最も標準的なエミュレーター・クライアントツールと位置付けられています。
それだけに留まらずACSはMacやLinux, モバイルデバイスなどJava8以降(2021年1月現在の最新バージョンACS 1.1.8.6において)が稼働するあらゆる環境で利用可能な汎用的なソフトウェアでもあります。
執筆時点の最新バージョンACS 1.1.8.6はIBM i 7.1以降をサポートしています。
図1. IAWとACS
*1 参考:5770-XE1 IBM i Access for WindowsのWindows 10以降のサポートについて(英文)
https://www.ibm.com/support/pages/ibm-i-access-windows-supported-operating-systems
参考までにIBMのサポートはありませんが、Windows10でIAWが使えているケースもあるようです。
一方で障害が多発し使用に耐えないというケースもあります。
あくまで自社責任としてIAWをWindows10でご利用いただくことは可能ですが将来Windows10パッチ適用等で突然動作しなくなる懸念もありますのでACSなど正式サポートのあるS/Wへの移行を推奨致します。
ACSとIAWとの違い
図2のようにACSのライセンスはIBM i Access ファミリー(5770-XW1)のひとつ、5733-XJ1 IBM i Access Client Solutionsとして提供されます。
従来のIAWも5770-XW1ファミリーのひとつでライセンス番号は5770-XE1です。
ちなみに5770-XW1ファミリーのその他のソフトウェアとしては5770-XH2 IBM i Access for Webもあります。
ACSはIAWと同様、クライアント側にインストールする等して使用しますが、IBM i Access for WebはIBM i サーバー上にインストールしIBM i 上のHTTPサーバー上で動作します。
クライアントはIBM i上のHTTPサーバーにアクセスしてエミュレーターを含むIBM i アクセス機能を利用できます。
ACSは他のIBM i Accessファミリーと同じIBM i ホストサーバージョブを使用します。
5250エミュレーターやデータ転送機能を利用するためにはIBM i Access ファミリー5770-XW1ライセンスが必要です。
ライセンス番号 | 名称 | ||
---|---|---|---|
5733-XJ1 | IBM i Access Client Solutions | Java8以降で稼働 Win, Linux, Mac, etc.. |
IAWと同様にクライアント側に導入し使用 |
5770-XE1 | IBM i Access for Windows | Windows 8.1までをサポート | サポート終了済 |
5770-XH2 | IBM i Access for Web | IBM i 上にライセンス導入し,HTTPサーバーインスタンスに構成付加 | PCブラウザー、モバイルデバイスからアクセス |
表1. IBM i Accessファミリー
ACSがIAWと最も異なるのはそのアーキテクチャーです。
IAWがWindowsデスクトップアプリとして開発されたのに対して、ACSは全く異なるJavaベースで開発されている点です。
実はACSのエミュレーター機能は
同じくJavaベースのエミュレーター製品であるIBM Host On-Demand(HoD)をベースにしています。
最新版のACSにおいてはベースとなったHoDには含まれない、IAWと同様なIBM i をより効率的に利用するための様々な機能が提供されています。
一方で、Windowsデスクトップアプリではない為、IAWでは可能だったドラッグアンドロップによるIBM i スプールファイルのWindowsテキストファイルコピーが使えない、印刷機能についてはIAWと完全な互換性が保たれていない等の制約も存在しています。*2
*2参考 : IBM Support : IBM i Access – Client Solutionsの基本的な情報のポータル(英文)
https://www.ibm.com/support/pages/ibm-i-access-client-solutions
参考情報として、表2.にIAW/ACS/PCOMMの主要機能比較を掲載します。
機能 | IAW | ACS | ACSに関する補足説明 | HACP (PCOMM) |
---|---|---|---|---|
ディスプレイ・セッション | ||||
セッションファイル形式 | .ws | .hod | マイグレーション機能あり | .ws |
キーボードのカスタマイズ | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
マクロ | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
ワークステーションIDの指定 | 〇 | 〇 | 〇 | |
外字 | 〇 | 〇 | Javaのフォント選択の機能に依存して動作します。 Windows環境のJavaの場合、自動的に、外字ファイルを利用する機能が備わっています。 |
〇 |
罫線 | 〇 | 〇 | 〇 | |
両面印刷 | 〇 | 〇 | 〇 | |
PCオーガナイザー (STRPCO) |
〇 | 〇 | 〇 | |
自動再接続 | 〇 | 〇 | 〇 | |
サインオンのバイパス | 〇 | 〇 | 〇 | |
タブ表示 | × | 〇 | ACSでの拡張機能 | × |
ウォーターマーク | × | 〇 | ACSでの拡張機能 | × |
データ転送 | ||||
IBM i からのダウンロード | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
IBM i へのアップロード | 〇 | 〇 | マイグレーション機能あり | 〇 |
パッチ実行 | 〇 | 〇 | 〇 | |
表示装置への結果の出力 | 〇 | 〇 | 〇 | |
ファイルへの結果の出力 | 〇 | 〇 | 〇 | |
データ転送Excelアドイン | 〇 | ×(代替機能を提供) | アクティブ・スプレッドシートへの入出力操作が可能 | × |
エクセル列タイトルに列見出しを利用 | × | 〇 | ACSでの機能拡張 | 〇 |
データ転送ファイル形式 | ||||
テキスト(.txt) | 〇 | 〇 | デフォルトの文字コードはUTF-8 | 〇(ASCIIテキスト) |
タブ区切りテキスト(.txt) | 〇 | 〇 | 互換性の観点ではSift-JISではなくWindows-31jが推奨 | × |
コンマ区切可変長(.csv) | 〇 | 〇 | × | |
エクセル形式-BIFF(.xls) | 〇(3,4,5,7,8) | 〇(8のみ) | △(Excel2000まで) | |
エクセル形式-XML(.xlsx) | × | 〇 | × | |
OpenOffice (.ods) | × | 〇 | × | |
プリンター・セッション | ||||
HPT | 〇 | 〇 | Java印刷サービスを使用 | 〇 |
PDT | 〇 | 〇 | プリンター機種により制約あり (IBM Pagesや557x系はACS初期Ver.より改善) |
〇 |
GDI(プリンタードライバー印刷) | 〇 | 〇(JPS) | ACS V1.1.8.0以降でサポート | 〇 |
接続セキュリティー | ||||
SSL | 〇 | 〇 | 〇 | |
TLS | 〇 | 〇 | 〇 | |
システム管理 | ||||
LANコンソール | 〇 | 〇 | × | |
HMC5250コンソール | 〇 | 〇 | 〇 | |
System iナビゲーター | 〇 | △ | IAWのSystem iナビゲーター主要機能は同様にGUIでサポート IFS操作、プリンター出力、データベース管理等 |
× |
SQL関連 | ||||
SQL実行機能 | 〇 | 〇 | ×(5250では可能) | |
SQLパフォーマンス・センター | 〇 | 〇 | × | |
Visual Explain | 〇 | 〇 | × | |
その他機能 | ||||
発信リモート・コマンド (RUNRMTCMD) |
〇 | × | 指定のIBM i にコマンド行からCLコマンドを送信することは可能。 | × |
着信リモート・コマンド | 〇 | × | 着信リモート・コマンドは非搭載。 Microsoft社のリモート・デスクトップ・サービス、SSHなどで代替必要 |
× |
スプールファイル出力 | 〇 | 〇 | スプールをテキストファイルでダウンロード | × |
入力文字妥当性検査 | 〇 | 〇 | デフォルトでは入力文字妥当性検査は‘オフ’となっているため、設定変更が必要 | 〇 |
5250接続中のPCスリープ回避 | 〇 | × | スリープをオフにするか十分に長い時間の設定が必要。 参考情報 |
〇 |
クライアントへのインストール | 必須 | インストール無しで実行可能 / インストールも可能 |
ACS導入プログラムでWindowsにインストール可能 インストールせずにファイルをローカル・ネットワーク上に保管して実行も可能 |
必須 |
IBM i OSSライセンス管理 | × | 〇 | × |
ACSの入手・導入
ACSは以下のサイトからダウンロード可能です。
http://ibm.biz/IBMi_ACS
上記URLにアクセスすると、IBMのMRS(Marketing Registration Services)というサイトにリダイレクトされACSのダウンロードページが表示されます。
ダウンロードにはIBM IDの登録(無償)が必要です。
原稿執筆時点では図4のように様々なオプションがダウンロード可能です。
IAWと同様にエミュレータープラスαの機能を使用するだけであればベースモジュール(IBM i Access Client Solutions IBMiAccess_v1r1.zip) をダウンロードすればよいでしょう。
もし、WindowsのODBCドライバーも使用したいのであればWindows アプリケーションパッケージ(ACS Windows App Pkg English(64bit) IBMiAccess_v1r1_WindowsAP_English.zip)もダウンロードが必要です。
ODBCドライバーはほかにLinux用、Mac用、IBM i 上のPASE用が提供されています。
図2. ACSのダウンロード
ACSはIBM i に適用するPTFとしても提供されています。ACS 1.1.8.6イメージは以下のPTFに含まれています。
IBM i 7.4 / 5770SS1 / SI74689
IBM i 7.3 / 5770SS1 / SI75022
IBM i 7.2 / 5770SS1 / SI75023
上記のPTFをIBM i に適用すると、以下のIFSにACSのイメージが導入されます。(図3)
/QIBM/ProdData/Access/ACS/Base
図3. IBM i IFS上のACSプロダクトイメージ
なお、上記のPTF番号はACSのバージョン毎に変化します。今後発表されるであろう新バージョンや古いACSバージョンのPTF番号を検索するには、以下のURLからIBM Supportページにアクセスし、 ACS 1.1.8.6 という風にACSバージョンを入力することで検索可能です。(図4)
IBM Support https://www.ibm.com/support/home/
図4. IBM SupportページからACSのPTF情報を検索
ACS用のJAVAについて
かつてはWindows PCに導入するJavaはOracle Java一択の感がありましたが、オラクル社による企業ユース向けJava利用の有償化以降、様々な選択肢が考えられるようになりました。
昨今では無償で利用可能なOpenJDKをベースとしたJavaを採用するケースも以前より増えているように見受けられます。
OpenJDKはIBMやRed Hat、その他ベンダーやクラウドで様々なディストリビューションが提供されています。
ACSはJavaを同梱提供しません。
このためユーザーがACSに使用するJavaを選択し導入が必要です。
ACSを利用するためのJava、という観点での選択基準を以下にご紹介します。
- 2018年6月にリリースされたACS 1.1.8.0以降はJava8以上が必要。Java8またはJava11が推奨。
Javaには様々なバージョンが存在しますが基本的にはLTSサポート(ロングタームサポート)のJavaバージョンを推奨します。現在のLTSバージョンはJava8とJava11です。
ACS 1.1.8.1以降ではJava11もサポート追加されています(ACS 1.1.8.0はJava 8, 9, 10をサポート)。
参考までに2021年9月に次のLTSバージョンの Java SE 17リリースが予定されています。
ACSのJava SE 17サポート情報は現在ありません。同じLTSのJavaバージョンであっても提供するベンダーによってサポート期間(サポート終了時期)にかなりばらつきがあります。
選択時にはその点も確認するのがよいでしょう。
ちなみに後述するIBMが提供するOpenJDKであるAdoptOpenJDKのサポート期間(パッチ提供など)はJava8版で2023年9月まで、Java11版は2022年9月までです(Java8版のサポート期間が長くなっています)。
参考までにRed Hat社が提供するRed Hat OpenJDKではJava8版は2023年3月まで、Java11版は2024年11月までとなっています。 - 各社から提供されるJava8とJava11から任意のものを選択可能。ACSとして特別推奨するJDKはありません。
ちなみにACSで何らかのS/W的な問題が発生しACSの問題と確認された問題はJavaの種類を問わずIBMが対応を行います。
一方Javaの問題と確認された場合にはJavaのベンダーが対応を行うことになります(一般的にはユーザーがJavaベンダーに対応を依頼することになると思われます。) - 3. IBMはOpenJDK開発チームに参画しており、AdoptOpenJDKというOpenJDKを提供しています。
AdoptOpenJDKには2つの実装が提供されています。
1つは他のベンダーと共通のオープンコミュニティが開発するHotSpot版、もう一つはIBMが独自実装するJ9版です。
J9版はIBMが有償サポートを提供しています。
J9版の有償サポートオファリングは、IBM Runtimes forBusinessと呼ばれ5737-F61と5737-J49の2つのオファリングがあります。
どちらも企業内のすべてのシステムに対してではなく、サポートが必要なシステムに対してのみサービスサブスクリプションを取得できます。
AdoptOpenJDKは(HotSpot版、J9版とも)以下のサイトからダウンロードできます。
https://adoptopenjdk.net/releases.html?variant=openjdk11&jvmVariant=openj9
参考:参考:ACSのJavaオプション(英文)
https://www.ibm.com/support/pages/node/719405
ACS・Javaの導入パターン
ACSを実行するために必要なコンポーネントは1.ユーザー作成のACS構成定義、2.ACSモジュール(ACSのプロダクトイメージ)、3.Java に分類することができます。
そしてこの3つはWindowsクライアントPCのローカルディスク以外に配置することも可能です。
図7にそのバリエーションを図示します。図7のパターン6だけは構成不可の例です。
図7. ACSの導入パターン
《後編へ続く》筆者
日本アイ・ビー・エム株式会社 多数の執筆記事を、iWorldに寄稿中。 |