寄稿:株式会社GxP (X-Analysis国内総販売代理店)
はじめに
レガシーなIBM iシステムを抱える企業にとって、膨大なRPGやCOBOLのコードを把握・分析する作業は時間と労力のかかる課題でした。しかし今、X-Analysis Assistantという強力な新機能が登場し、この状況を一変させようとしています。X-Analysis Assistantは、IBM i向けアプリケーション解析ツール「X-Analysis」スイートに統合された最新のAI駆動型拡張機能です。
OpenAIのGPTモデルやAnthropic社のClaudeといった大規模言語モデル(LLM)との連携により、コード解析やドキュメンテーションを自然言語で容易に行えるようになりました。これは単なる技術的進歩に留まらず、IBM iユーザーが自社のアプリケーション資産をより深く理解し、モダナイゼーション戦略を加速するための大きな価値を提供します。
自然言語処理で広がる可能性
自然言語処理(NLP)の導入により、専門知識が要求されるコード解析のプロセスが劇的に簡素化されます。開発者や担当者は複雑な技術的質問を平易な日本語や英語でX-Analysis Assistantに問いかけるだけで、AIがリポジトリ内の関連情報を調べ上げ、理解しやすい回答を提示してくれます。
たとえば「このプログラムは何をしますか?」と尋ねれば、対象プログラムの目的や機能を要約した説明が即座に得られます。また、ソースコードの一部をハイライトして「この処理の意味は?」と質問すれば、そのロジックを自然言語で噛み砕いて説明してくれるなど、まるで熟練の同僚に相談しているかのような対話型の解析が可能です。これまで断片的なドキュメントや属人的な知識に頼っていたIBM i資産の理解が、NLPによって飛躍的に効率化されます。

▲図1. 自然言語操作
LLMとリポジトリデータ融合による高精度解析
X-Analysis Assistantの大きな特徴は、単なるLLM単独の利用ではなく、長年の実績を持つ信頼性の高いX-AnalysisリポジトリデータとAIを組み合わせている点です。
X-Analysisは従来からアプリケーションのクロスリファレンスやビジネスルール抽出、影響分析などで定評のあるリポジトリ型ツールですが、新しいAIアシスタントではこのリポジトリが持つシステム知識を土台に、LLMの自然言語応答能力を融合させることでより精度の高い回答を引き出します。
Fresche Solutions社(X-Analysisの開発元)のCTOであるジョン・クラーク氏も、「X-Analysisが持つ既存の関係性に関する知識とLLMの力を組み合わせることで、ユーザーのコードに関する有意義な説明を引き出している」と述べています。なお、一般的なLLMはCOBOLの理解には比較的長けていても、RPG特有の暗黙的な処理構造やデータ領域の扱いなどに苦戦するケースも指摘されています。X-Analysis Assistantではリポジトリ内に蓄えられたIBM iアプリケーションの構造情報をAIに参照させることで、RPGの癖も踏まえた的確な回答が可能となっており、IBM i固有の言語にも対応できる点でも優れています。

▲図2. RPGコードの日本語説明(単純プロンプトを与えた例)

▲図3. RPGコードの日本語説明(仕様書作成ガイドラインプロンプトを与えた例1)

▲図4. RPGコードの日本語説明(仕様書作成ガイドラインプロンプトを与えた例2)

▲図5. RPGコードの日本語説明(仕様書作成ガイドラインプロンプトを与えた例3)
またここで重要なのは、LLM単体では主に「入力されたソースコードの範囲内での理解・解釈」に留まるということです。これは、ソースファイル単体に対する深堀的な解析には適していますが、アプリケーション全体における関連性や依存構造、データの流れ、品質といった“俯瞰的かつ全体最適な視点”を持つには限界があります。X-Analysis Assistantはこの点において大きく異なり、X-Analysisが持つ包括的なリポジトリデータに基づいて、アプリケーション全体を横断的に理解し、複雑な相関や影響範囲までも加味したインサイトを提供できます。つまり、点ではなく面としてシステムを理解できるAI解析が可能であり、開発・保守・再設計における意思決定を大きく支援します。

▲図6. 俯瞰的なオブジェクト関連性分析
セキュリティ重視の設計
企業システムにAIを導入する際に懸念されるのがセキュリティとプライバシーです。機密性の高いソースコードやデータを外部のAIサービスに送信することには慎重にならざるを得ません。X-Analysis Assistantはそうした懸念に真摯に向き合い、不要なデータの流出を防ぐ堅牢な設計がなされています。重要なポイントは、X-Analysisがプログラム解析に必要な最小限の情報のみをLLMプロバイダーと共有し、顧客のデータベースファイルの内容そのものは一切送信しないことです。共有されるのはプログラム名やフィールド名、該当コード片のテキストなどに限られており、機密データは外部に出ません。
また、ユーザー自身がOpenAIまたはAnthropicのいずれか必要に応じてLLMサービスを選択し、APIキーを取得してX-Analysisに設定することで利用を開始できます。特にAnthropic Claudeは送信データを永続的に保存しないポリシーや業界標準の高いセキュリティ基準を備えているため推奨モデルとなっており、安心して利用できる配慮がなされています。このようにX-Analysis Assistantはエンタープライズ環境の要求に応える万全のセキュリティ設計で、AI活用におけるデータ漏洩のリスクを最小限に抑えています。
ハルシネーションを抑えた信頼性
昨今話題の生成AIには、あたかもそれらしいが事実とは異なる回答をしてしまうハルシネーション(幻覚)という問題があります。
これは「LLMの出力が与えられたコンテキストや現実と一致せず、誤った情報を含む場合」に生じる現象です。当然ながら企業でAIを使う以上、誤った回答は許されません。X-Analysis Assistantは、このハルシネーションを極力抑えるため、AIに参照させるコンテキストに信頼性の高いリポジトリデータを組み込むアプローチを採用しています。
具体的にはユーザーから質問があれば、それに関連するプログラムやフィールドの情報をX-Analysisのリポジトリから検索し、その文脈を添えてLLMに問い合わせます。こうしてAIの回答は実際のアプリケーション資産に裏付けられた内容に基づくため、事実に反する独り歩きした回答が出にくく設計されています。
LLM単体ではトレーニングデータに存在しない問いに対して推測で応答を作り出してしまうケースがありますが、X-Analysis Assistantでは常にIBM iシステムから得られる根拠とともに応答が生成されるため、ハルシネーションの発生リスクが大幅に低減しています。
要するに、AIのパワーと信頼性ある企業データを掛け合わせることで、誤答の少ない安心できるアシスタントを実現しているのです。
主な活用例
X-Analysis Assistantが想定している具体的なユースケースとして、以下のようなシーンが挙げられています:
- IBM i上のバッチ処理プログラムや対話型プログラムの一覧取得
- プログラムのソースコードを自動解析し、機能概要をドキュメント化
- 特定のデータ項目(フィールド)の参照箇所を追跡し、影響範囲を調査
- 複数プログラム間の依存関係を可視化し、連携構造を把握
- 複雑なソースコードからビジネスロジックを抽出し、平易な言葉で要約説明
これらはいずれも、従来であれば開発者が手間をかけて調査・分析していた作業です。X-Analysis Assistantにより、こうした作業が対話形式でスピーディーに行えるようになり、保守や開発の効率向上に直結します。また、技術者の高齢化や人材不足が進む中、ベテラン技術者の知識継承や業務効率の確保という面でも非常に有効です。
まとめ:AIとIBM iの調和
X-Analysis Assistantは、最新のAI技術とFresche Solutionsが長年培ってきたアプリケーション解析技術を巧みに組み合わせ、ビジネス現場で即戦力となるアシスタント体験を提供します。自然言語処理による直感的な操作性、LLMとリポジトリ連携による高精度な知見、そしてセキュリティ・コンプライアンスへの配慮――これらすべてを兼ね備えた本機能は、まさに現代のAI能力とエンタープライズ要件のバランスを取った独自の実装と言えるでしょう。レガシーなIBM iアプリケーションを扱う開発者にとって、X-Analysis Assistantは信頼できるパートナーとなり、コード理解や保守・モダナイゼーションの効率を飛躍的に高めてくれるはずです。
従来から蓄積されたX-AnalysisリポジトリがAIによって“対話できる知恵袋”へと進化したこの革新的なアシスタントを活用し、レガシー資産の新たな価値を引き出してみてはいかがでしょうか。
筆者
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株式会社GxP |