2024年12月4日
日本アイ・ビー・エム株式会社のIBM Power製品事業部は、「技術者プール」や「IBM i 若手技術者コミュニティー(IBM i RiSING)」といった施策を打ち出し、お客様の期待や要望に応えようとしています。これらの施策は、IBM Power 事業部長である原 寛世氏が執筆したブログ記事によって5月に発信されたものでした。この10月に新たなブログ記事が公開されたことを踏まえ、ブログ記事を用いた施策発表を実施する背景や2025年の施策などを、原 寛世氏、そして、IBM i 統括部の久野 朗氏に伺いました。
「稟議書準備支援室」に込められた思い
iWorld事務局(以降は「iWorld」と記述)
2024年10月7日に、新しいブログ記事、「IBM i 施策メッセージ第2弾:IBM i 次期システム更改の稟議上申ポイントを日本IBMがご紹介します」が公開されました。
原 寛世氏(以降は「原」と記述)
実は、「ブログ」と言うと思いつきで書いた記事のように想像されてしまいますので、最近は、「事業部長の施策」と言い直すようにしています。
初回の「事業部長の施策」では、ユーザー・コミュニティーの活性化と技術者プールに言及しました。IBM i における後継者と技術者不足の問題を精査した結果、技術者は不足しておらず、お客様と技術者とを適切にマッチングできていないというのが実情であると判明しました。
そこで、メーカーとしてリーダーシップを発揮して、技術者プールを作成するとともに、お客様とのマッチングをお手伝いしていくことを強調しました。
そして、技術者プールとマッチングのご説明のためにパートナー様やお客様を訪問したところ、「お客様のご担当者が上申する際に、経営者に向けてIBM iを訴求しづらい」という話を伺いました。つまり、IBM i としての上申の時、どのような点をポイントとして訴求すべきなのかが分からない、ということなのです。
例えば、IBM i の先進性や利用の優位性をご存知ではない社外取締役などに「この会社は、まだ、AS/400を使っているのですか?」と言われるのだそうです。知識不足に基づくこのような固定概念を払しょくしなければいけないと思ったわけです。
そこで、経営者向けにIBM i をご理解いただくという観点を念頭に、稟議書をボトムアップで起票する際に漏れがちなポイントなどを、綺麗かつ網羅的に改めて整理しました。これが、「事業部長の施策」の第2弾です。
漏れがちなポイントの最たる点として、空気や水のような当たり前の存在として使われている基幹業務システムの基盤が、IBM i であることの明示が挙げられます。単なるハードウェアの更改ではなく、「効率的にビジネスを遂行していく上で不可欠なITのためのハードウェアの更改である」ことを経営者にご理解いただき、IBM i の存在価値に気づいていただく、ということです。
具体例の1つが、セキュリティーです。IBM i 以外のITインフラの場合、セキュリティー対策のためにかなりの費用をかける必要がありますが、IBM i を使用しているからこの程度で済んでいる、という視点で、IBM i を使っているがゆえに当たり前となっているメリットを数値化してみました。
他に、後方互換性の話も盛り込んでいます。
一般的にオープン系のシステム更改プロジェクトは、数ヵ月から年単位になると言われています。なぜならば、全プログラムの稼働テスト、フレームワークやミドルウェアの稼働確認、非互換項目の確認などにかなりの工数と時間がかかるからです。
IBM i であれば当たり前であるが故に、上申における訴求ポイントから漏れがちですが、IBM i は、システム資産のほぼ全てを基本的に何も変更せずに、新しいバージョンのOS上で稼働させることをアーキテクチャーで可能としています。IBM i ユーザーが、過去何十年にわたって当たり前に享受できているメリットですので、明確化しました。
もちろん、IBM i は非常に少人数で運用が可能であるが故に、圧倒的に費用がかかりません。そして、99.999%の高いハードウェア可用性と、垂直統合された高いセキュリティー機能と堅牢性によって、計画停止・非計画停止のダウンタイムが少なく、その分の大幅コスト削減も実現しています。
いずれも、「使っていると当たり前」すぎて、敢えて訴求されてこなかったメリットと言えるでしょう。
(iWorld)
今回の記事で特に特徴的なのは、具体的に金額でメリットを書いていらっしゃる点で、稟議書に書きやすいであろう、という印象を受けました。
(原)
説得力を持って訴求できるように、外部の調査データに基づいて具体的にまとめました。
さらに、「お客様のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実現するための稟議である」という視点が重要だと思っています。
つまり、お客様が更なる成長を遂げるためには、お客様自身のDXが必要不可欠であり、そのためのハードウェアの更改であり、OSのバージョンアップであるという視点です。
DXの実現の最短ルートは、今まで投資してこなかったIBM iにきちんと投資した上で、既存のアプリケーションとデータベースを最新IBM i テクノロジーにより、新しい時代へのビジネス変革に必要な仕組みへと再構築することです。「最短ルート」とは、「短期間」という時間軸のメリットだけでなく、「低コスト」、「低リスク」であることも含まれます。
つまり、DXに取り組むためにオープン系のシステムに移行するのではなく、既存のIBM i 上のアプリとデータという無形資産が持つ価値に目を向けて、IBM i で実現するDXこそが、お客様における真のDXであると訴求するべきと思っています。
IBM i でDXに取り組めば、今まで享受していた、セキュリティー対策に関する費用、システム更改費用、基幹系システムの運用費用、システムのダウンタイムの低減という価値がそのまま継続できるのです。これら4つの価値がIBM i とIBM Power サーバーにあるので、蓄積されているデータを活用しながら、稼働させているアプリケーションに対して投資していきましょう、というメッセージなのです。
整理すると、「企業の持続的な発展のためにはDXへのチャレンジが必要」であり、「DXに取り組むには、コスト削減に注力するだけではなく、ITに対する積極的な投資が必要」であることをお話ししてから、「DX実現にはIBM i の既存のアプリケーションとデータ資産を活かすことが最短ルート」であり、あわせて「IBM i の基本的なメリットを訴求する」という組み合わせが、上申にあたり最善ではないかと思うのです。
日本IBMでは、「稟議書準備支援室」と命名したサポート体制も用意しました。この「稟議書準備支援室」は、お客様からのお問い合わせだけでなく、お客様へご提案するパートナー様からのお問合せにも対応いたします。そして、お客様からお問い合わせをいただいた場合には、そのお客様を担当する販売パートナー様とも連携して、きちんとご支援させていただきたいと考えています。
実は、「稟議書準備支援室」には、既にお問い合わせが来ています。あるお客様からのご相談で、まさに、上申のポイントで困っているとのお話でした。
現在、IBM i のアプリケーションを利用しているけれども、他のアプリケーションに替えても良いのでは、と経営層に言われてお困りだというのが、そのお客様からのご相談でした。
現場ではIBM i の継続利用が最適解であると認識されております。ただ、「他のアプリケーションに替えても良いのでは」と仰っている経営層の方は、自社向けにカスタマイズされたアプリケーションがどれだけ自社向けに最適化されているか、そして、そこに至るまでにどれだけ連綿とヒト・モノ・カネと時間をつぎ込んできたかということをご存知ない。
そこで、現在使っているアプリケーションこそが自社にとって最適であり、そのためにIBM i を使い続けるのが最善であることを理路整然と回答するための理論武装に力を貸してほしいというご相談でしたので、まさに「稟議書準備支援室」が担うべき内容のご依頼でした。
(iWorld)
ご担当者がこれまで自社のために最適化してきたにも関わらず、長年同じプラットフォームで稼働しているからと言って、ITのせいにされてしまうのは厳しいですね。
そのような状況下、なぜ、IBM i なのかをどのように説明するかを「稟議書準備支援室」にご支援いただけるというのは、本当にありがたい話です。
2025年に向けて
(iWorld)
来年の施策について、お話いただけますか?
(原)
来年の施策は、今年から始めたことの継続となります。
今年は、中規模以下のIBM i のお客様にIBM i を継続利用いただくという観点で、技術者プール、若手技術者活性化を始めとする施策に重きを置きました。これらの取り組みは来年も継続します。
来年は、IBM i をお使いでないお客様へのアプローチを考えなくてはならないと考えております。IBM Powerは性能の良いマシンですし、IBM i を取り巻くエコシステムも充実していますので、IBM i をお使いでないお客様にも評価していただけると信じております。
具体的には、 国産メインフレームをご利用のお客様や、保守サポート終了に困惑しながらも国産オフコンの利用を継続されているお客様にとっての受け皿として、IBM i を評価していただけるように力を入れていきたいと考えています。
また、IBM i プラスAIとして、AI関連のメッセージを強めていくつもりです。
(iWorld)
AIと言えば、国外のRPG コードアシスタントのプロジェクトとは別に、国内でも生成AIのプロジェクトを始められるとお伺いしました。国内のプロジェクトの狙いは何でしょうか?
(原)
日本では、RPGⅢの技術者の持続性に力を入れないといけないと思っております。そこで、生成AIにRPGⅢを学習してもらうことを主眼とするプロジェクトを立ち上げました。
(久野)
生成AIにRPGⅢを学習させて、RPGⅢを理解する生成AIを作るプロジェクトです。まだ、始まったばかりのプロジェクトであり、「コード生成」と「仕様説明」の2つを対象としています。
グローバルで進行中のプロジェクトは、まずはフリーフォームから開始しています。それに対して、我々はまずRPGⅢにフォーカスを当てようとしています。
そして、前提としているIBM watsonxには様々なプロダクトがあるので、例えばIBM watsonx.aiによって対応できるもの、watsonx Code Assistantを使った方が近道になるもの、色々なパターンがあると思っています。
お客様側におけるRPGⅢのニーズもあるでしょうし、既存のRPGⅢはRPGⅢのままでよいが、新規に開発するプログラムがAIで作れるのであれば、言語の種類は問わないというお客様もいらっしゃるでしょう。アプリケーションの持続性を担保する取り組みは、お客様の多様性に合わせて様々であるべきと思っています。
(iWorld)
国内プロジェクトも大いに期待ができそうですね!