「人手不足時代」と言われる現在。この言葉で検索してみると、様々なページやニュースが表示されます。
原因は、以前から言われている「2025年問題」に代表される人口の年齢別比率の変化だけではありません。昨今の転職市場の拡大による人材流動化と、その結果とも言える人材採用の難易度と定着率の課題は、企業数、従業者総数の双方で大半を占める中堅・中小企業に大きな影響を及ぼしています。つまり、人手不足は喫緊の課題なのです。
令和6年度 年次経済財政報告の第2章第1節第2項「人手不足に対する企業の対応と課題」では、内閣府が2024 年に実施した「人手不足への対応に関する企業意識調査」への回答結果が紹介されています。
[令和6年度 年次経済財政報告 149ページ] 人手不足への対応策
(1)全規模・全産業ベースの対応状況
人手不足への対応策についての回答結果で、特徴的として言及されているのは「従業員の待遇改善」「新卒・中途採用数の増員」「省力化投資」です。
このうち、「新卒・中途採用数の増員」は採用強化であり、「従業員の待遇改善」は既存雇用の流出防止策です。流出防止策が奏功した場合は新規採用の強化を抑制できますので、この2つは「採用」に関わる施策と言えるでしょう。
そこで、本記事では「省力化投資」について、令和6年度 年次経済報告と2024年版 中小企業白書の両方を読み解きます。
人手不足への対応策としての「省力化投資」
令和6年度 年次経済報告で「回答割合が相対的に低いものの2019年実施の同調査との比較において増加している」、2024年版 中小企業白書では「拡大の余地が大きいといえる」と言及された省力化投資。
令和6年度 年次経済報告で紹介されている分析結果によると、「企業間の人手不足感の違いによる投資スタンスの違いは、ソフトウェア投資において顕著」であり、「製造業では生産の自動化に資する機械設備も含めた省力化投資に積極的に取り組んでいるのに対し、非製造業では省力化投資の中心がソフトウェアである可能性が示唆される」とのことです。
[令和6年度 年次経済財政報告 161ページ] 人手不足への対応策
(2)業種別にみた投資性質別の省力化投資の状況(5年前との比較)
さらに、「中小企業では、ソフトウェアの導入が省力化投資の中心である可能性が示唆される」とも述べられています。
「iWorld」をご覧くださっているのは、IBM i やIBM Powerを筆頭とする各種ITをご利用くださっている方々ですので、本記事では「省力化投資の中心=ソフトウェアの導入」という示唆に絞り込ませていただきます。
令和6年度 年次経済報告の第2章第1節第2項160ページの(5年前と比べ、企業の省力化投資は、ソフトウェアやシステムの導入を中心に増加)で、「確認できる」として紹介されているのは、「WEB・IT関連のソフトやシステムの導入」と「AIや機械学習を含むRPA(Robotic Process Automation)についても、製造業、非製造業ともに相応の割合の企業で投資を増加」でした。そして、どちらも、人手不足の解消ではなく、現有要員での対応を実現するための「業務効率化」を目的とする投資に該当します。
ここで同時に意識したいのは、2024年版 中小企業白書の第1部第7節 DX(デジタル・トランスフォーメーション)における分析です。白書のI-255ページでは、デジタル化の取り組み状況が段階3*や段階4*の企業の一部で、「生成AI」や「RPA」を活用する動きが見られる、と述べられています。さらに、白書のII-54ページで、省力化投資は、人手不足の緩和だけでなく、業務効率化による売上増加や、業務時間の削減などにより様々な取組が行える可能性もあるなど、多様な効果が期待される、と述べられています。
* 段階3:デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
* 段階4:デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態
令和6年度 年次経済報告(148ページ)で、回答割合が相対的に低いものの、「省力化投資」を挙げる企業の割合も増加していると評価され、2024年版 中小企業白書(I-269ページ)で、省力化投資を行っている企業は比較的少数で、中小企業における省力化投資への取組は拡大の余地が大きい、と述べられていることを踏まえますと、人手不足への対応策としての「省力化投資」は推奨される取り組みと言えるのではないでしょうか。
省力化投資における「生成AI」と「RPA」
令和6年度 年次経済報告で言及されている「WEB・IT関連のソフトやシステムの導入」は、言葉が網羅する範囲が広いため、具体性がある「生成AI」と「RPA」について考察してみましょう。
生成AIについては、何をどのようにどの業務で使うかの判断や、自社データを学習させるのか否かなどの検討が不可欠でしょう。一例を挙げるなら、生成AIの活用による社内での情報検索に要する時間の削減があり、この場合は、現有要員の業務効率化に寄与することになります。
例えば、「ChatGPT」を検索して表示される複数の国内事例を参考に、省力化投資の観点で自社に合うものを探すことが出発点になると思います。そして、学習させないまでも自社に関する情報を入力に用いるのであれば、ChatGPTではなく、「入力されたテキストを学習に利用しない」前提のOpenAI APIの利用が基本となります。
IBM i の場合、データベースはIBM Db2であり、ODBC接続、REST接続、API接続によってデータの外部利用ができますので、(生成AIの適用対象によりますが)AIに学習させるために自社データを活用することは可能です。
次に、RPAです。
RPAについては、令和6年度 年次経済報告の第2章第1節第3項165ページの(しかし、企業単位で見ると、省力化投資は、生産性の向上に寄与している可能性)で、以下のように適用業務が述べられています。
「RPAの投資を増加させている企業は、輸送用機械、鉄鋼・非鉄金属など製造業や、金融・保険業などで多く、生産管理や人事管理、事務処理等の面などで効率化を進めている様子がうかがわれる」
生産管理と人事管理が、RPAへの投資において効率化が進む業務とのことですので、当該業務に対する省力化投資として検討する価値があるのではないでしょうか。
IBM i については…、例えば「RPA」と「IBM i」(および旧称の「AS/400」)で検索してみると、いくつかの事例や検証記事が検索結果として提示されます。IBM i との連携を謳うベンダー製品もあります。
さらに、私が勤務している株式会社イグアスの子会社である株式会社アルファー・コミュニケーションズでは、Microsoft Power Automate Desktopの「ターミナルエミュレーション」アクションとIBM i との連携を紹介しています。
RPAは様々なベンダーが提供しておりますので、具体化に際しては自社にあった製品を選択いただくことになります。もちろん、本格展開の前に検証をする観点では無料試用版が提供されている製品が候補になると思います。
(参考動画)Microsoft Power Automate Desktopの「ターミナルエミュレーション」アクションとIBM i との連携
まとめ
人手不足への対応として、「従業員の待遇改善」「新卒・中途採用数の増員」以外に、業務効率化による現有要員での対応の実現を目的とする「省力化投資」があることが、「令和6年度 年次経済財政報告」(内閣府)、2024年版「中小企業白書」(中小企業庁)を紐解くことで分かりました。
そして、「デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態(段階3)」や「デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態(段階4)」の企業の場合は、「生成AI」や「RPA」の活用が有効と判断されることも分かりました。
人材流動化が進む現状を鑑みますと、人手不足への対応策として、拡大の余地が大きいと評価されている「省力化投資」への取組を検討してみる価値は高いのではないでしょうか。
筆者
株式会社イグアス |
本記事は、「令和6年度 年次経済財政報告」(内閣府)、2024年版「中小企業白書」(中小企業庁)を参照して執筆しております。