株式会社GxP モダナイゼーション部 部長 阿野 幸裕
はじめに
IBM Bob(Project Bob)は、IBM iプラットフォームにおけるAI搭載の開発支援ツールとして大きな注目を集めています。RPGコードの生成・リファクタリング・説明といった開発者の日常作業を大幅に効率化する一方で、Bobの利用は「コイン」という従量課金方式で管理されます。コインはAIへの問い合わせ処理量に応じて消費されるため、使い方によってはコストが想定以上に膨らむリスクがあります。
本稿では、X-Analysis AI(Fresche Solutionsが提供するIBM i向けアプリケーション分析ツール)との役割分担を整理することで、Bobのコインの消費を抑えながら高品質なモダナイゼーションを実現する戦略を解説します。さらに後半では、近い将来に実現するとされるMCP(Model Context Protocol)を介した2ツールの連携についても展望します。
第1章:IBM Bobのコイン課金を理解する
1-1. コインとは何か
IBM BobはAIへの問い合わせに「コイン」を消費します。コインの消費量は主に処理するトークン数(入力するコードやテキストの量+AIの回答量)に比例すると考えられます。具体的な単価は公式に公開されていませんが、大量のコードや複雑な質問を繰り返すほど、消費が加速します。
- 大量のRPGソースコードをそのままBobに貼り付けて「このコード全体を説明して」と依頼する
- 「このプログラムを変更したらシステム全体にどんな影響があるか」を繰り返し質問する
- 同じプログラムの仕様や依存関係を毎回Bobに調査させる
- システム全体のドキュメント化をBobだけで実施しようとする
1-2. Bob が本来得意とする領域
Bobはプログラム単位の「手元の作業」を高速化するツールとして設計されています。コーディング中にコードスニペットを見せて「この処理を改善して」「このSQLを最適化して」といった具体的な指示を出すのが最も効果的な使い方です。
- 特定のプログラムやサブルーチンのリファクタリング
- RPGコードの新規生成(プロンプトから雛形を作る)
- コードの構文や処理ロジックをその場で確認する
- コメント・ドキュメントの自動生成(プログラム単位)
1-3. Bobを「万能ツール」として使うことのリスク
IBMが明言している通り、BobはシステムレベルのIBM i分析ツールではありません。依存関係マッピングや全体影響分析をBobに依頼することは、以下のリスクを伴います。
- 大量のコードを入力するためコインを大量消費する
- Bobはコンテキストウィンドウ内の情報しか見られないため、システム全体の依存関係を正確に把握できない
- 誤った影響分析に基づいてコード変更を行い、本番障害につながるリスクがある
- 同じ分析を開発者ごとに繰り返す「二重消費」が発生しやすい
第2章:X-Analysis AI が担うべき役割
2-1. X-Analysis AI の概要
X-Analysis AIはFresche Solutionsが提供する、IBM iアプリケーションの分析・理解・ドキュメント化に特化したツールです。RPG・COBOL・CA 2E(Synon)で書かれたレガシーアプリケーションを対象に、システム全体を俯瞰する「地図」を提供します。定額ライセンスで提供されるため、何度分析してもコストは変わりません。
2-2. オブジェクトレベルの分析
X-Analysis AIの代表的な機能として広く知られているのが、オブジェクト(プログラム・ファイル・テーブルなど)間の依存関係を可視化する「依存関係マッピング」です。
- プログラム間呼び出し関係:どのプログラムがどのサブルーチンを呼んでいるか
- ファイル・テーブル参照:どのプログラムがどのテーブルを読み書きしているか
- 変更影響分析:特定のフィールドやファイルを変更した場合、影響を受けるプログラムを一覧表示
これにより、開発者はコードに触れる前に「何を変えると何が壊れるか」を正確に把握できます。Bobでこれと同等の分析を行おうとすると、膨大なコードを入力し続ける必要があり、コストと精度の両面で現実的ではありません。
2-3. ソースレベルの細かい分析 ── X-Analysis AI の隠れた強み
X-Analysis AIはオブジェクトレベルの依存関係把握だけでなく、ソースコードレベルの詳細な分析機能も備えています。この点は見落とされがちですが、Bobコインの消費を抑えることにおいて重要な役割を果たします。
- フィールド単位の使用箇所追跡(どの変数がどのプログラムのどの行で使われているか)
- データフロー分析(値がどのように生成・変換・伝搬するかを可視化)
- ビジネスルールの自動抽出(コード内に埋め込まれたロジックを抽出)
- 品質メトリクス(循環的複雑度・コード規模・問題箇所の特定)
- 業務プロセスマッピング(プログラムの処理フローを図で表現)
つまり、「このプログラムが何をしているか」「この変数はどこから来てどこへ行くか」といった理解は、Bobに問い合わせる前にX-Analysis AIで完結させることができます。Bobへの問い合わせを「具体的なコード改修作業」に絞ることで、コインの無駄な消費を防げます。
X-Analysis AIとBobの機能が一部重複していたとしても、X-Analysisを先行活用することには明確な経済的理由があります。定額ツールで「事前調査」を完了させ、従量課金ツールは「作業の実行」に特化させる——これが最も合理的な投資配分です。
図1:X-Analysis AI の分析レイヤーと IBM Bob の役割分担
第3章:2ツールの役割分担と比較
3-1. 機能比較表
以下に、X-Analysis AIとIBM Bobの機能・特性を整理します。
| 比較項目 | X-Analysis AI | IBM Bob |
|---|---|---|
| 分析の対象範囲 | システム全体・アプリ全体 | プログラム単位(スニペット) |
| 依存関係の把握 | 全プログラム・フィールド横断で正確 | コンテキスト内のみ・推測あり |
| ビジネスルール抽出 | 自動抽出・ドキュメント化 | コード説明のみ |
| コイン消費 | なし(定額ライセンス) | 処理量に応じて消費 |
| 大量コード処理 | 数百万行も一括処理 | コスト・精度ともに現実的でない |
| リアルタイム補助 | △(事前分析として活用) | ◎(コーディング中にリアルタイム) |
| RPGコード生成 | ×(生成は対象外) | ◎(AI補完・生成に特化) |
3-2. Bobコインの消費を抑えるワークフロー
2つのツールを適切に使い分けることで、IBM Bobのコインの消費を最小化しながら最大の成果を得ることができます。以下に推奨する4ステップのワークフローを示します。
図2:Bobコインの消費を抑える 4ステップ ワークフロー
3-3. シナリオ別:コインの消費比較
実際の開発シナリオに当てはめると、使い分けの効果がより明確になります。
| シナリオ | Bobのコイン消費 | 推奨アプローチ |
|---|---|---|
| システム全体の影響調査 | 大量消費・精度低下のリスク大 | X-Analysis AIで事前に実施→Bobは不要 |
| 特定プログラムのコード理解 | 中程度(コスト対効果が低い) | X-Analysisのソースレベル解析で代替可 |
| 個別ロジックのリファクタリング | 適量・高効果 | BobをメインにX-Analysisで補完 |
| 新規RPGコード生成 | 適量・高効果 | Bobに特化させる |
3-4. 経済的合理性:定額 vs 従量
X-Analysis AIはライセンス販売であるため定額の保守料で継続利用できます。何百万行のコードを分析しても、コストは変わりません。一方、IBM Bobは利用量に応じたコインの消費が発生します。
重複領域があっても経済的な意義があります。大規模なシステム全体の分析をBobで行うと、コスト・精度・スピードのいずれもX-Analysis AIに劣ります。定額ツールで「事前調査」を完了させ、従量課金ツールは「作業の実行」に特化させる——これが最も合理的な投資配分です。
第4章:近い将来の展望 ── MCP連携による統合
4-1. MCP(Model Context Protocol)とは
MCP(Model Context Protocol)は、Anthropicが2024年11月に公開したオープンな標準プロトコルです。AIツールと外部データソース・サービスを繋ぐ「共通規格」として、Claude・Cursor・VS Codeなど主要AIコーディングツールへの対応が急速に広がっています。MCPの本質は「AIツール連携のUSB-Cポート」です。一度MCPサーバーを構築すれば、MCP対応のあらゆるAIクライアントからその機能を利用できます。
4-2. IBM Bob はすでにMCPクライアントとして機能する
IBMが2026年2月に公開した公式チュートリアルによれば、IBM BobはすでにMCPクライアントとして動作しています。JSON設定ファイルで外部MCPサーバーを登録するだけで、Bobのコーディング画面から外部ツールの機能を呼び出せます。
- グローバル設定(mcp_settings.json):全ワークスペース共通で適用
- プロジェクト設定(.Bob/mcp.json):チームで共有可能、プロジェクトごとに制御
4-3. X-Analysis AI の MCP サーバー化 ── 開発中
Fresche Solutionsは2026年4月、X-Analysis AIをMCPサーバーとしてIBM Bobに統合する開発を進めていることを公表しました。正式なリリース時期・仕様は未発表ですが、技術的な方向性は明確です。
- BobのチャットUIから「このフィールドを変更すると何のプログラムに影響する?」と問い合わせると X-Analysis AIの依存関係データベースが即座に回答
- ビジネスルールの確認もコーディング画面を離れずに実行可能
- 2ツール間の往復作業がゼロになる
- X-Analysisが返す情報はコインを消費しないため、Bobのコイン消費がさらに抑制される
図3:MCP統合後のワークフロー(近い将来の展望)
4-4. 統合後のBobコイン消費抑制効果(展望)
MCP連携が実現すれば、現在の4ステップワークフロー(ツールを行き来する手動作業)が、Bob上のシングルインターフェースに集約されます。さらに以下の効果が期待できます。
- Bobへの無駄な問い合わせが消える:
X-Analysisが事前に答えられる質問(影響分析・依存関係)をBobに聞く機会がなくなる - コーディングの精度が上がる:
正確なシステム知識を参照しながらBobが提案するため、試行錯誤によるコイン消費も減る - チーム全体の効率向上:
プロジェクト設定で共有されたMCP接続は、チーム全員が同じシステム知識を共有しながら開発できることを意味する
まとめ
IBM BobとX-Analysis AIは、それぞれ異なる役割を持つ補完的なツールです。Bobのコインの消費を抑えるためのポイントを整理します。
① 全体分析はX-Analysis AIで完結させる(コスト・精度ともに優れる)
② ソースレベルの詳細理解もX-Analysisの機能を優先活用する
③ Bobは開発工程に集中させ、調査に関する問い合わせを最小化する
④ 2ツールが重複する領域があっても、定額ライセンスのX-Analysisを先行活用するのが経済合理的
⑤ 近い将来のMCP連携により、この役割分担がさらにシームレスになる
IBM iのモダナイゼーションは長期的なプロジェクトです。コスト管理の視点を持ちながら、「システムを知るツール」と「コードを書くツール」を適切に組み合わせることが、持続可能な近代化への近道です。
本稿は2026年4月時点で公開されているオープンソース情報・公式ドキュメント・業界メディアの報道をもとに構成しています。IBM Bobのコイン課金の詳細な仕様・単価はIBMの公式発表をご確認ください。
本資料はIBM BobとX-Analysisの双方を利用する前提で執筆されています。X-Analysis AIの単独利用などで自然言語処理を使用する場合はAPI接続するLLMベンダーへの従量課金が発生いたします。
X-Analysis AIのMCPサーバー対応はFresche Solutionsが「開発中」と表明しているものであり、正式リリースの時期・仕様は未発表です。将来予測に関する記述はあくまで推測・考察であり、各社の公式見解ではありません。










第2章:X-Analysis AI が担うべき役割
第3章:2ツールの役割分担と比較
第4章:近い将来の展望 ── MCP連携による統合
まとめ