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株式会社マルテー大塚(以下、マルテー大塚と略)は東京都新宿区四谷に本社を構える、創業110年を超える老舗企業です。
その事業内容は、刷毛、ローラーなどの塗装用具の製造販売、ならびに塗装用機器工具・住宅器材・建築用具などの商社機能も併せ持つ大塚刷毛製造株式会社、そして、自社ブランドの刷毛・ローラーをホームセンター経由で販売する株式会社ハンディ・クラウンの2社を中核としたホールディング会社です。
マルテー大塚は、国内グループ12社、海外グループ会社を統括しています。
塗装業者などプロを対象とした大塚刷毛製造の商品は代理店経由、DIYユーザー向けのハンディ・クラウン商品はホームセンター経由での販売となっていますが、「マルテー・プラス」というECサイトでは一部商品の直接販売も行っています。
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システムの基盤としてはIBM i を利用しており、差異化のためにブレずに自社開発戦略を継続してきました。IBM i 利用の歴史は古く、1979年にIBM System/34を採用したことに始まり、販売・在庫のシステムを構築、現在はグループ企業6社を対象にIT部門20名で運用しています。そのうち、IBM i のアプリケーション担当者は9名おり、IT未経験の若手社員をまずは情報システムに配属し、教育するという風にIT人材育成にも積極的に投資を続けています。
IBM i 上で稼働する販売・在庫管理システムは、社内向けには5250エミュレーターの黒画面で提供していますが、営業が社外から商品在庫や仕切値、手配状況などをスマホで簡単に確認できるようなインターフェースをPHPで開発・提供しています。また、商品・在庫などを商品画像付きで確認できるWebアプリを開発し、5250エミュレーターでは制約の多い表現力を補っています。
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それ以外にも社外向けには、代理店向けの受発注業務をWebアプリで公開しています。以前は代理店からの注文はFAXで届き、社内のオペレーターが商品コードを調べて自社システムに手入力していましたが、Webアプリで代理店が自分で直接入力確認できるようになったことで、オペレーターの大幅なワークロード削減が実現できました。
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前述の社内商品照会や、代理店向け受発注のWebアプリは外部のLinuxサーバー上に実装されていますが、基幹のIBM i とはDb2 Connectでリアルタイム連携がとられているため、いつでも最新の状況を確認することが可能となっています。
こういったシステムを4台のIBM i システム(東京本社、大阪のバックアップ・サイト、宮城のグループ会社用システム、埼玉にあるハンディ・クラウン用システム)と、他社クラウド上に実装したLinuxサーバーを使って運用してきました。
とはいえ、本社部門にあるIBM i も、本体の可用性の高さは折り紙付きであったものの、サーバールームの空調が故障してシステム停止といった事態が発生し、次第にシステム部門による管理の負担が重くなってきていました。さらには、他社クラウドで実装していたLinuxのOSサポート切れ問題や、IBM i 本体のPower8搭載機の保守切れが発表になったことも重なり、システム全体のクラウド移行の検討が始まりました。
そこで、IBM i 環境をIBM Power Virtual Server(以後PowerVSと略)に移行し、他社クラウドを利用していたLinuxサーバーはIBM Cloudに移行することとなりました。これなら、今までは分散されていた仕組みを同じIBM Cloud上の環境に統合することができ、IBM i とLinuxサーバー間のデータ連携も同じローカル環境にあることからスピートアップできるのではと期待しての選択でした。
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実際にIBM Cloudとその上のPower VSを採用して感じたメリットは3つあります。
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一つ目は、Disaster Recovery(以下DR)コスト、システム管理工数の削減効果です。
2015年に導入した以前のマシンは、東京と大阪でDR構成をとっていましたが、それでもHDDやLTOテープの故障などに遭遇し、業務を止めるほどの障害ではないものの、土曜日にメンテナンスのためにサーバーを停止したりなどの手間がかかっていました。
今回のPowerVSでは筐体とストレージがN対Nの関係で構築されており、簡易的なDR構成が実装されているイメージとなりました。これにより障害時の可用性は十分担保されると考え、大阪に設置していたDR目的のサーバー機を廃止することができました。ハードウェアコストならびにシステム管理工数のコストを大幅に削減することができたのです。
二つ目のメリットは、実際移行後に強く実感したのですが、締め処理が高速化され、日次の締め作業が大幅に時間短縮できたことです。
それまでは、全国に30ある事業所が夕方17時から18時くらいまでの間に一斉に締め作業を開始し、そのバッチ処理が毎日30分ほどかかっていたものが、PowerVSに移行後はわずか3分で終わるようになりました。
この速さの秘訣は、ひとつにはCPUのバースト機能で、通常運転時には0.25コアで運用しているところ、負荷集中時には最大1コアまで業務を止めることなく自動的に拡張して利用できること、もうひとつはTier1ストレージとしてSSDが使えるようになり、かなりのスピードアップが図れるようになったことだと思っています。
三つめのメリットは自由な構成、従量課金体系です。
クラウドなのでCPU、ストレージだけでなく、ネットワークや仮想環境の冗長化も図られており、kintoneなどの外部SaaSサービスと連携する際にも、ネットワーク構成変更が容易に行えるというのも魅力です。また基幹業務のデータが増加した際にはストレージの増強も容易に行えるので、ひとつひとつのDX施策の実装をスピーディーに行うことができると考えています。
この新しい環境のもと、社外向けには取引先向けのサービス強化、そして社内の生産性改善を図る社内DXの2つのプロジェクトが進行中です。
前述の通り、弊社ではIBM i を基幹システムとして、そしてUIの部分はLinuxサーバーを活用していますが、それ以外の社内のちょっとした脱EXCEL業務に関してはサイボウズ株式会社のkintoneを活用しています。
kintoneに関してはシステム部でも開発は行っておりますが、一部の開発は商品部や総務人事部などの現場に任せ、本社部門の業務改革をいわゆる“市民開発”の手法で推進しています。
“市民開発”についてはサポート(伴走)及びアプリの管理をシステム部で行っておりますが、現場主体の開発となりますので、より実務に近く現場が納得できるDXが実現できるものと考えています。
また社外向けの取り組みとしては、現在営業マンが在庫を外から見られる仕組みをPHPで提供していますが、今後このような外部アクセスや取引先向けサービスの仕組みに関して、株式会社MONO-Xが提供するMONO-X ONEを利用して、スキルの標準化を図っていきたいと考えています。
これらのプロジェクトについては、コスト最適化され、可用性も向上したPowerVS環境によって、“すぐに”、“安全に”業務改善できる環境が整ったと言えるでしょう。
以上、差異化のためにブレずに自社開発戦略を維持、その基盤として IBM i を継続利用し、人材にも投資してきた弊社が、今回クラウド環境へ移行することにより BCPも実現しながらコスト最適化を図った事例のご紹介でした。
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